T:番組をどんな風に感じました?
D:いやね、最初は高みからの物言いと思って聴いたわけ。大滝というのは音楽博識の人でしょ、だから聴取者たる俗物にこういう面白いモンもあるのだゾ_聴かせてやろうか…という感じかと。けれど違うんだよね。ただただ好きでレコードかけてた (笑)。マジで好きなんだ、冗談音楽も大好きなんだこの人! というのがすぐ分かってさ。
I:そうなんですよ。
D:ワタシ、リアルタイムにはっぴいえんどを観て聴いて好きだった口だから…【ゆでめん】* も好きなのね、でもその当時の大滝の音はもろにバッファロー的な〝wetな〟モノだったでしょう、それが弾けたポップス男として『ゴーゴーナイアガラ』に登場してきたから…最初だけ違和感、すぐに分かった「あ〜なぁんだ、こっちが〝地〟の人だったんだ」(笑) と。
T:でも奥山さんは…大滝詠一の72年のファーストソロから聴いてたんでしょ? そこではもうバッファローやモビーグレイプとまったく違ったことを、ポップス然としたことを既にやっていて…それはどう感じてました?
D:そこはねぇ…たとえばあの中で大滝と鈴木慶一が「冗談じゃねーやーず」としてコーラスしてるじゃない、それがジョーダネアーズ * だってことが分からない (笑)。
T:そりゃそうでしょ (笑)。
D:つまりポップスの何たるかがちっとも分かってなかったから、単純に感じたんだ…あぁ大滝という人はメロディメイカーなんだと。はっぴいの時と違ってメジャーキーで曲を書く人_すごくキレイなメロディを書ける人だってことに驚いたンだなぁ。それは【ナイアガラ・カレンダー】とかでも言えたことだけど…。
T:そうするとあのラジオ番組というのは、なんでああいうアルバムを出すのかという説明づけを後からしていったわけですね。
I:そうそう。大滝さんとのメールのやりとりできるようになってからラジオのことを聞いたんだけど…「よかったんですか? こんなに素人相手に〝種明かし〟してしまって…」と。それに対して「『ゴーゴーナイアガラ』は壮大なる種明かしの番組なんですヨ」と。「まだまだ石川君の知らない〝ネタ〟はあります」とも言われて、それでワタシは下敷きソング探求の旅をやめたんです。ようするに複合技なんですよ。1曲2曲の話じゃなくて…。
T:氷山の一角を見つけて鬼の首を取ったような気になってんじゃないよって… (笑)。
I:そうなんです。なのでラジオで壮大に種明かししてももちろん全部じゃない。それとね、これもよく言うんだけど…あの番組は「尺合わせ」が大変だったと思うのね。最初1時間で、50分になり30分になっちゃうんだけど…。30分でボビー・ダーリンとかエヴァリーとか…特集するのは大変ですよ、それでもちゃんとやってます。それも外の音…飛行機の音とか入れてリアルタイム感も出しているでしょう、それできっちり収める大変さは…凄いなぁと。
T:大滝さんて、アーティストというより編集者、プロデューサーの感覚に優れた人ですよね。
I:脚本家だと思うのね。今回の『アメリカンポップス伝』* を聴いて思ったことはこの人はシナリオライターだなと。音楽通というよりも、どうやって人に面白く聴かせるか分からせるかということに神経がいってる。
D:石川さんにとって『ゴーゴーナイアガラ』はルーツというか、大きな物だったわけですね?
I:あそこから自分の指向性というか、全方向に向いてみようと…ロック/ポップスだけじゃなくてSPを聴くとかジャズも聴いてみるとか、何でも受け入れる姿勢にしてくれたという意味で本当に大きかったですね。それと、俺は何も知らないんだと気づかせてくれて、真摯になれた…いや楽になれた、かな。ウェストコーストのロックなんかは知ってるつもりだったけれど、そこですら知らないことが山のようにあってね…。知っているふりをすると辛いんです、「知らない」と言ったほうが吸収できるんですね。その姿勢がこのお店に役立ってますよ。いろいろなことをやってます。これは自分の範疇じゃないかなと思うような音楽でもとりあえずやってみる、自分自身が聴いてみる/観客になるという姿勢ですかねぇ。
D:羨ましいですねえ。いろいろな音楽人たちとブッキングを通して知り合い、体験できているわけでしょう、石川さんは…。僕なんか歳ともに頑なになる一方で…。ブログやウェブで「知ったかぶり」はしないようにしてるつもりではありますが (笑)…。
T:ウェブといえば、今知ったことをあたかも20年前から知っていたように書けちゃいますもんね。この情報過多の時代では。
I:そこが問題だよね。『ゴーゴーナイアガラ』にしても中には間違いも当然ありますよ。でもそこを指摘するのは…違う気がするんだよね。
T:音楽ライターのKさんから聴いたんですけど、65年に書いたライナーノーツの間違いを指摘してくる若い子がいるそうです (笑)。
D:重箱の隅を突くんじゃんなくて、その時代にその音楽を語ろうとした…まして今よりずっと資料も何もない時代に自分の足で調べたことでしょう、その気概というか先見性を理解できるかどうかですよね。そこら、wikipedia が当たり前と思っている世代には難しいでしょうけど。
T:世代で言うと…もう子どもからおじいちゃんまで共通して歌えるような曲って無い時代ですよね、音楽も風俗も縦割り/世代ではっきり分かれてる…。そのなかでたとえば僕の好きなオールディーズを20代30代に伝えようという気持ちも、正直萎えちゃってますよね。
I:私はそうでもないんだよね、というかこの店のモチベーションも違う世代にいろいろな事を伝えたいというのがあるわけです。
T:そこが石川さんのえらいところですよねぇ、諦めてない (笑)。
I:大滝師匠の教えとして「誰かがやったことはいい、誰もやってないことをやれ」と肝に銘じているので、CDで音源復刻とかやったり…。これは出来ないかもと思った時に、よりパワーが出るんです。この店にしても相当反対されましたけど、それでももう6年やってるわけです。すべてがうまくいくわけじゃないですよ、でもやってみることが大切なんでね。
D:大滝さんのスタジオへ伺う機会があったとか?
I:昨年の暮れなんですが…。
T:ミュージシャン以外で福生スタジオに入れた人って、まずいないでしょう…。
I:自分にとってピークですよ、大滝さんのスタジオに入るなんてことはね。考えられないことがあって、後はどうなるかなあと思っていたんだけど…今は俄然やる気が満ちてますね。(店の)いろいろな企画も立ててますから期待してください。
【130222 武蔵小山アゲイン】