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D's Talk session #08 with 森岳史

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友川:友川かずき_秋田出身のシンガーソングライター
mori03
音盤洞:池袋にあった輸入盤専門店
ラビ:中山ラビ_7枚目LP【会えば最高】'80 キティ/編曲 星 勝
水口:水口光利_洪栄龍が率いたスラッピー・ジョーのベーシスト
星勝:モップスのギタリストだった星さん_井上陽水のブレイクを影で支えた
ドンカマ:ドンカマチック_これでリズムマシーンの正式名称である
チャー:言わずと知れたギタリストのチャー、まずスタジオギタリストとして活動を始める_まりちゃんズ、NSP、山崎ハコなど
アーティフィシャル:ADT=アーティフィシャル・ダブル・トラック

D:青い森では?

M:え〜と古井戸が三人になってた頃かな。それと友川*がいてさ…俺らのところへギター持ってきて「すみません、チューニングしてください」って (笑)。まさか後になって友川のレコーディングをやるとは思わなかったよな。アルバム2枚やってんだよ。

D:森さんが?

M:シーザーがアレンジしてるから。

D:なるほどねぇ…。まあ桟敷をやりながら青い森なんぞへ出たりして…。それと音盤洞*の仕入れ仕事も?

M:そうだな…あ、シンコーの原稿を書き始めたワ。

D:それはいくつで?

M:え〜と…24、5かな。今野がヤマハからシンコーへ入ったからなあ…でもその前から山本さんは知っていたよ。学校時代のバンドで『ヤングギター』主催のコンテストに出てさ、そこで編集長の山本さんと知り合ってシンコーへ遊びに行ったりしてたんだ。レコード評を書いてみないかとか言われて…そこから始めたのかな。

D:じゃあ桟敷に籍があったままでライターも…?

M:いや、籍なんて無いンだよ、俺は。劇団員じゃないから。客演みたいなもんで、頼まれたら弾く…。

D:お座敷がかかったら行く…? (笑)

M:シーザーから音楽やるって連絡があったらな。

そうこうしてるうちにラビ*のバックをやるようになった。ベースの水口*、ミッコって奴がいて、ラビのバックだけどギターが抜けるからやらないかって誘われて…79年ごろかな、やり始めた。

D:ふむふむ…。ちょいと戻るけど、音盤洞はどういう経緯で?

M:知り合いのインポーターからかな。

D:それってリバーブの工藤さん?

M:そうそう。工藤か今野か、どっちかから振られて…仕入れを手伝ってくれと。見事にツブれたな、音盤洞 (笑)。

D: (笑)でもさ…、オレも結構あそこで買ったヨ。

M:俺の仕入れだから、いいレコードあっただろ? (笑)

D:あの頃って輸入盤屋がいろいろあったよねえ。SSWやら名盤ブームだったし…。音盤洞もその中のひとつだったけれど、そのネタはどうしていたの?

M:まあ他の店の広告も見てたし、インポーターからの情報…こんなの入ったよとかさ。三軒ぐらいのインポーターと付き合っていたな…新橋のほうの店がいいレコードを持っててさ。それと吉祥寺でジョージアをやってた伊藤君が知り合いで…。店にいた背の高いの…知らない?

D:え? 野地っチャのギョロ目しか覚えてないなぁ…。

M:ブラックホークの小冊子も参考にしたな、インポーターがそれを見せながら「ダン・ペンのカット盤入ったけど、いる? 」とか聞いてくるわけよ。「何枚もらえるの? …じゃあ10枚でいいや」とかさ (笑)。カットって仕入れ値が400円ぐらいだった…いい商売だよな。まあ俺は店にいたわけじゃないから並行してラビのバックをやっていて…。

D:ラビさん仕事はどこまで? レコードは?

M:一枚やって…それとキティの企画盤みたいのがあって…だから一枚半だな。それとライブハウス廻り。

D:そうかキティからか。

M:で、そのレコーディングのディレクターが星さん…。

D:なるほど、キティだから星勝さん*だ。

M:星さんにはいろいろ鍛えられた。「森君、そこちょっと走っているよ」とか (笑)、細かいんだよ〜。

D: (笑)

M:すごくいい勉強になったけどな。ちゃんと弾かなきゃいけないんだと初めて思ったんだけど…それが最後の仕事になった (笑)。

D:最後の最後で気がついた (笑)。

M:気がつくのが遅いっつうの (笑)…。人生そんなモンなんだよ (笑)。

D:なるほどねぇ。

M:今、たまに弾くときはすごく丁寧に弾いてるよ…。昔シーザーとやってたころにその気持ちがあればもうちょっといい形に残せたんだけどな。

で、ラビのバックをやめた時にキティのディレクターがシングルを送ってきて、そのバンドに入らない? と言ってきたんだよ。でもテクノみたいでつまんなくてさ…断った。なんか音楽やるのが面倒臭くなっちゃったんだよな…、歌が歌えて曲が書けるとか、なにかあったら続けていたかもな。

D:友川のレコードってのは?

M:やってるよ2枚、シーザーのアレンジで。あれは結構まともに弾いてるんだよな。唯一かな (笑)…あとラビの盤と。桟敷のレコに関しては垂れ流しだから…。

D:レコーディングはそうすると…桟敷の盤、ラビ、友川?

M:それぐらいだな。あと、シーザー・アレンジで森田童子をやったんだけど後でレコード聴いたら俺のギター全部消されてた (笑)…、アコギに差し替えてやんの。

D:へこむね (笑)。

M:それでまたヤル気がなくなっちゃうんだよなあ… (笑)。

 

D:レコーディングってのはどんな風? 森さんはギターでしょ。ギターの録音ではリズムは前録りしてあるの? それとも一斉に音を出す?

M:一緒にやる。スタジオ・ミュージシャンと。オジさんばっかり。無名のオジさんミュージシャンらなんだけど、やっぱり上手いんだよ。俺なんか二十代の小僧じゃん…オジさんたちは顔見知り、お互いツーカーなわけ、譜面見ながらブーブー言ってたりして…。俺は隅のほうでギター持って…なかなか〝アウェー〟感が漂ってるわけヨ (笑)。

D:ドンカマ*ってのはどうなってるの?

M:使うよ。

D:リズムマシーン?

M:ガイドな、クリックの。なんで使うかっていうと、もちろんリズムのキープなんだけど、後になってのダビングのときにドンカマ使ってないと絶対に入れられないんだよな。

D:なんで?

M:リズムがすこしでも揺れていると合わせられない。入っていれば、極端なときは他の音を全部消してもドンカマだけ聴いて被せの録音ができる…。

D:なるほど。もっと言えば小節数だけ数えてその箇所にパンチイン/アウトでダビングができてしまう?

M:そうそう。演奏って流れていくからやっている分には多少走ったところで気分は乗ってるし問題ないんだよな。OK出てから聴き直してもおかしくない。でもそこにダビングしようとすると、これができないのよ。その微妙な乗りは結局ズレだからさ、後では合わせようがないんだよな。

D:ほうほう。ということは…スタジオライヴで一発録りなんて場合以外は、後でダビングを想定しての録音にはドンカマは欠かせないと。

M:そうだな。

D:インペグ屋っていうけど、これは何?

M:ミュージシャンを抱えていて、レコーディングがあるって時にじゃあベースは誰でドラムは誰でって決めて連絡入れる…、登録したミュージシャンな。

D:派遣だ、ミュージシャン派遣業。

M:ギャラは録音のトラック分だけでるから、ギターでもリズムだけよりリードも弾くと倍になる…、だからタンバリンもとか、あれもこれもやらせてって… (笑)。

D:1曲で二度三度と美味しくなるわけだ。モリタケさんの登録は?

M:俺はないよ。俺はシーザーがアレンジしたときに声がかかるだけだから。その現場にはインペグ屋の仕込みのオジさんらが既にいるわけよ。若い奴はいなかったなぁ、みんな叩き上げのオジさん。…チャー*は若くてやってたらしいけどな。 

D:レコーダーは何トラックでやってたの?

M:最初は…御苑スタジオで2トラだよ (笑)。初めて東芝のスタジオへ行ったら8トラで…テープ幅が1インチだっけ、ブットイのがあって…。しばらくして2インチの16トラックが出てきただろう…ありゃ凄かったな。エンジニアがまた凄くって、そのマスターテープに鋏いれて切っちゃうんだよな。不要な2小節はここですねとか言いながら…。今ならプロツールズでなんとでもなるじゃん。でもマスターだぜ、失敗したらどうしたんだろうなあ? (笑)

D:絶対失敗しない (笑)。匠の技。

 その修正箇所ってのは…自分で気になったところを申告する? もう一度やれせてくれとか?

M:そうな。星さんからは「森君、ここ走ってるからもう一度」とかよく言われた (笑)。 

D:ふむふむ…。なんかそういうレコーディングの現場を見たかったなあ、アナログ時代の…。オレは…録音されたレコードってモンが好きで…スタジオ・ワークに興味かな。カセットのマルチ録音機とか持っていたけれど、そんなんじゃなくてプロのね、録音現場…。

M:そうだな、お前なんか喜ぶだろうな。

D:ブライアンにしろトッド・ラングレンにしろ、スタジオで何やっていたかなと…思いながら聴いていたほうだからねぇ…。

M:あの人たちには特別の技が何かあったんだろうな…普通にはやらないような…。

D:まあビートルズであったでしょ、アーティフィシャル*なんとかっての (笑)。

M:やり出したら面白いよな。

D:スタジオ・ワークにハマるってやつかね。やりたかった…。だけどそれやっちゃうとやっぱりライヴができなくなるよねえ…。

M:そうだな、生では再現できないモンになるとな。ビートルズなんか四人だけで出す音じゃよっぽど物足りなく感じたんだろうなあ。

D:楽しめる半面で再現性がきわめて低くなってしまう…難しいモンだ。

M:ダビングで、ひとりでギター弾き終わって待つじゃん…、テイクがOKかどうかをガラス越しに待ってる時ってのが嫌なモンでなあ…。ひそひそやってんだよ…返事まで長かったりすると「最後の審判」て感じでさあ (笑)…。

D:そのOKは誰が出すの? ディレクター、プロデューサー…。

M:日本じゃそれはイコール、一緒だったよな。まあ自分からもう一回やれせてくれって言った時もあるし…。きびしかったのはさっきも言ったけど星さんな。でもあの人、いい事を言ったヨ。『森君、俺きびしくしてるのはねえ、これを10年20年後に聴いてもミスしてるとかおかしいとか言わせない物を作りたいんだ』

D:う〜んなるほど、プロだねえ…。

M:プロってのはきっちりやらなきゃいけないって事ヨ。

D:でもアーティストにもよるよね。シンガーソングライター盤とか70年代にずいぶん聴いたけど、素朴さやイナタさを良しとしていたわけじゃない。ニール・ヤングなんかドンカマとかまったく関係ないよね、きっと。スタジオ入って、出てきた時には1枚分を録ってる、とかさ (笑)。

M:クレイジー・ホースと一緒の時はそれだよな (笑)。

D:モリタケさんもレコードは散々聴いてきたよねえ、その中でセッションのクオリティの高低なんかはかなり感じていた?

M:プロ野球でさ、1軍のレギュラーも2軍で戦力外寸前の選手でもプロはプロなんだよな…レベルは全然違っても。レコードでもスティーリー・ダンと俺がやっていたのでは次元が違うわけよ (笑)。俺が桟敷でやっいたのは垂れ流しだったしなあ…、でもジェフ・ベックは、たとえヤードバーズでも…テクは甘かったかもしれないがキッチリやっていたよな。ラフだけどちゃんとしてるわけよ。凄い人は最初からそうなんだよな、だから今でもやれてる。ミュージシャンてのはシビアなモンだよ…俺が言うことでもないけど… (笑)。

 

 

【120629 赤羽駅前の喫茶店

 

 

 

 

 

天井桟敷公演/身毒丸

紀伊国屋ホールで芝居で、これはテープでなくプレイヤーが
全員舞台に出て演奏:guitar 森 岳史