ご本尊のファースト・ソロ、やっと入手。

#034
"PETE CARR/Not A Word On It"
[ '76 Big Tree/US]
<A:★★>

 ウェブはするもの。掲示板友(アメリカ在住)の手を介して入手したピート本人のファースト・ソロ。オレにとっては25年ぶりぐらいかな、目にしたこのLPの裏ジャケは、ブラック・レスポールを持ったピートのフォトだと前に記したがちょいと違っていた。ギブソンはギブソンだが "Custom L-5" というモデルを手にしたそれだった。内袋にはそのギター、それに件のゴールドトップ・レスポールも、アンプがブラックパネル(Rre-CBS)、銀パネルの Fender Twin Reverb, Bassman など。すべてピートの使用機材だろう。
 バック・ミュージシャンは Roger Clark(dr), Lenny Le Blanc(Bass), Clayton Ivey(kbd) とお馴染みの面子、Chuck Leavell の参加も当時ならば当然か。録音はマッスル・ショールズの Wishbone Studio 。

 内容はといえばほぼ想像通り、苦手なギター弾きまくり大会…ではあるが、曲の粒はセカンド『Multiple Flash』よりもそろっている。前述ジャック・テンプチンのソロはピートのプロデュース作品、それとこのファースト・ソロは印象が近い。全編のバックトラックの音が似ているのだ。なんといってもストリング・シンセがなぁ、この時代の感じしまくり。フュージョンなんて言葉もよぎるし、当時のTV番組「傷だらけの天使」とか「探偵物語」のサントラみたいにも聴こえたりして。ならばピートはショーグンの芳野藤丸、ウォーターバンドの井上尭之と変わらないってことか?
 所々にピート得意のフレーズが出てくる、それはいいがやはり手数、音数が多すぎて聴き続けるのはちょいとシンドい。全曲ピートのオリジナルだが抜群の曲がないのでギターが生きてこないというギタリストのソロの典型的パターン。やっぱり人のバックでこそ俄然輝くという職人肌のギタリストだよなぁ、ピート先生は。

 表ジャケは顔が9連発。モミアゲこそ長いがヒゲが無いのが当時の南部ミュージシャンには珍しい。そのせいか結構若く見えて、なにやら10CCのエリック・スチュワート似。

(蛇足/スペシャル・サンクスに Jerry Wexler の名あり)

 

Pete Carr goes to New York....

#035
"Simon & Garfunkel / Concert in Central Park "
[ '82 Geffen/JP]
<C:★>

 わずか400円、それでも買うンじゃなかった、この盤…。“昔の名前で出てい〜ます”これにつきる。ここにはライヴのダイナミズムも高揚感も無し。50万人が集まったというから半数が買っても25万枚はさばける勘定だな、そう、実際に観た人間のみが買えばいい、そんなアルバム。そして10年に一度ぐらい「そうそう、ここにオレ居たっけなぁ」としみじみしてな、かね…。
 Steve Gadd, Grady Tate, Anthony Jackson, Rob Mounsey.... バックを務めるのは超一流ミュージシャンだが、彼らのファンとて期待してはいけない。手堅い“ただのお仕事”の域を出ず、スティーリーダン・セッションなどで見せる白熱の名演奏などはまるでないのだ。そしてオレの期待はもちろんピートだったが、推して知るべし。

 前19曲中ピートがエレキを弾くのは4曲だけかな、ほとんどアコ。ギターは3本、レコードでの音位置/定位は、センターにポール・サイモン、左に David Brown (ビリー・ジョエルのバックらしい) で右がピート・カー。エレキはDavid Brown に任せている。唯一「コダクローム」とのメドレーで演奏された "Maybelline" でエレキのリード・プレイが聴けるだけ。これもつまらん。
 ポールのアコ・ギターは Ovation のようだが音からするとピートのもそれ。これが、まあ好みだがオレからすると最低でアコの音じゃない。グラスファイバー製ボディだからか、エレ・アコ仕様なのか、このギターの音はエレクトリックでもアコースティックでも無く、なんちゅーか…「プラスティックの音」といった風。

 このなんともトホホなアルバム、いやライヴ・ステージへのピートの参加はもちろんアート/ポールの両アルバムにマッスル・セッションが多かったためだろう。だから急場の仕込みのために、コードを覚えているだろうピートならばってことでNYまで呼ばれたのかもなぁ。ギャラ的には「オイシイ」仕事だったろうが、やっぱりアート・ガーファンクルのマッスル録音同様で光るところがまったくない…。

 

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えーと、2月以来の更新ですか。ひっさしぶりに入手のピート・カー物LPは Great Texan, ボズ・スキャッグス。

#036
"BOZ SCAGGS/My Time"
[ '72 Columbia/JP]
<B:★★★★>

 このソロ3作目は全11曲、うち5曲が第二の故郷というべきシスコ録音、残り6曲がマッスル録音となってる。シスコ曲はシスコ・ロックであり、マッスル曲はまったくのサザン・フィーリング。それをねらっての録り分けとはいえ見事に音に出るのがこの人のいいところ。
 「売れ線」としては、結局このアルバムまではさほど注目されることなく次作『Slow Dancer』で「つかみはOK」、その次のロス録音(バックは後のTOTO)『Silk Digrees』で大ブレイクを果たした訳だが、ようするにロスの“洗練/ソフィスティケイト”がキーだったんだな。ジャケを見てもそれまでと「スロー」以後はまるで違う。ただのロック兄貴からシティ・ポップスの雄、然と。後に変更されたがオリジナル「スロー」ジャケは一気に水着姿だもんね。
 もしもこのアルバムあたりから一発ヒットが出ていたら、ドビー・グレイやジョー・サウスらと同様な南部臭の One-Hit Wonder で終わっていただろう。へたに当たらなくて逆に良かったよ、きっと。オレはロスでのAORの権化のようなボズも大好きなのだけど、このアルバムなんか聴くとこの人の本質は“イナタさ”/素朴さなのかもとも思う。6曲のマッスル曲はほんと、南部マナーつーの?いい味出しまくり。思うンだけどバックコーラスの女声、これがゴスペルっぽくて南部〜って感じを高めてもいるかな。そして当たり前だがマッスルリズム隊、地に足付いた音、骨は太いのに軽やかで最高でございますヨ。

 そして本題のピート・カーだが、72年のアルバムなのでまだまだ本領発揮の時期ではないとさほど期待していなかったがどうしてどうして、かなりオフ気味で音は小さいけれど、いいギター弾いてますがな。とりわけアルバムトップ "Dinah Flo" とラスト "My Time" では完璧に近いフレーズを。リードでも取る曲あったらAにしたところ。
 マッスル・サイドでのパーソネル・クレジットではギタリストはジミー・ジョンソン、ピート、ボズ本人、それに (Acoustic) Eddie Hinton と4人。アコのみのクレジットだが、そのヒントンが素晴らしいアコギ・プレイでバックをつける曲がB面の "He's A Fool For You" 。ヒントンのみならず、ドラムのロジャー・ホーキンス、指先でタム打ちしているみたいな、タム音好きのオレにゃたまらぬ。そのリズムの上に時たま斬り込むのがジミー・ジョンソンのギターだろう、レズリーを通しているな、いい味…。ピートは加わっていないようだが最高です。

 笑っちゃうくらいにまんまのアル・グリーン・カヴァー(なのにシスコ録り)、アラン・トゥーサン曲らしいニューオリンズ・ビート…他人曲4曲含むが全体的に楽曲は粒ぞろい、かなりイケてる盤。但しオレのようなマッスル・フリークにはよくても一般受けとなると…。そこは本人が一番痛感していたんだろうね、シスコ、アラバマ、そしてロスと流れてやっと金脈を掘り当てた。それもいいやね。

 蛇足だが、マッスル・サイドではそれらしい音が聴こえてこないボズのギター、対しシスコ・サイドのクレジットでギターはボズのみ。ノリノリのシスコ・ロックは母屋だった Steve Miller Bandそっくりだが、別曲でギターが4本くらい重なる曲がある。全てボズによるオーバーダブだろうか、だとしたら上手い。
(020730)


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このサイトの熱心な読者(?)、京都の田口さんにまずは深謝。捜していた音を提供頂いた。ただしその内容は…とにかくこのLPについて…。

#037
"The Le Blanc-Carr Band/
Live from the Atlantic Studios"
[ '78 Big Tree/US]
<…:★>

 長年の朋友レニー・ルブランと組んで、77年に出したLP『Midnight Light』からのシングル "Falling" が思わぬヒットとなったピート、その勢いままにもう一枚アルバムを出していたことは、業界御用達サイト=AMGのリストチェックで知っていた。それがこれ、78年3月18日NYはアトランティック・スタジオでのライヴ盤。所属の Big Tree がアトランティック傘下だからだね。
 ライヴではピートの味がうまく出ない、荒くなってしまうと思いながら、それでもルブラン&カーのアルバムとあらば是非入手したいと思っていた盤だ。ところがこれが何ともトホホなブツでした。評価を見ての通り、ノン・ピート・アルバムであったとは…。

 全米トップ20入りのヒットが出たとなれば、Big Treeレーベルとしてもイングランド・ダン&ジョン・フォードに続けととばかりに躍起になったことだろう。ならばてっとり早いのはライヴ盤で再プッシュだ。ところがルブランもカーもスタジオ・ミュージシャン、ライヴ経験はあっても感が鈍っている。そこで考えたのが親会社のスタジオでのライヴ、客といってもほぼ身内、これならば何とでもなろうというもの。いわば公開リハで、上手くまとまればツアーも考えようといったところがこのアルバムの顛末とオレは想像した。
 ところが乗ったのはルブランのみ、ピートは不参加。思うにピート、誘われたオールマンズにも加わらなかった過去からしてライヴ嫌いかも。根っからのスタジオマン、自身のギターサウンドもスタジオワークでこそ活きることを充分承知していたンだろうなァ。オレもそう思う。

 さて、ピート不参加といえども「ルブラン&カー」の名前無くしては何の意味もないので当然のようにこの名義と相成った。のみならずルブラン/カー組となれば前に記したとおり Roger Clark(drum), Randy McCormick(keyboard) の名前が挙がるはずがそれもなし。ようはルブランをトップに立てただけの“やっつけ”編成バンド。よって音は推して知るべし…。南部のバーをサーキットしていたトップ40バンド以外の何者でもありませんよ、こりゃ。
 裏ジャケには全米ラジオステーション関係者の名前を列記、FMエアプレイのためにアトランティックは相当の金を使ったように見受けられる。が、次のヒットは生まれなかった…。

 収録曲中 "Rainy" "Looking for a Love" の2曲は『Midnight Light』にもピート/ルブランのソロにも未収録のルブラン曲、重箱フリークにはそれだけが目新しいところか。
(020820)

* 田口さんからはルブランのセカンド『Breakthrough』( '80 Capitol) の音も頂いたが、感謝しつつ内容はこちらもまたトホホの極み。
 パンクとディスコに席巻されたこの時期のアメリカ音楽業界で70年代ミュージシャンが生きる道をまさぐっている典型のようなアルバム。そうそう、愛するFemale singer/songwrighter, Wendy Waldman の最低作『Which Way to Main Street』に近いものがある。まさに“メイン・ストリートはどこ?”、迷えるミュージシャンの姿なのだ。仰々しいサウンドは産業ロック的でもあり、繊細かつ柔和な音/サザン・スピリットあふれるファーストからこうまで変わるか…というのが正直なところ。ピート不参加。

 

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ふと立ち寄ったレコ屋でピート物を2枚入手。

#038
"PAUL DAVIS/Southern Tracks & Fantasies"
[ '76 Bang/US]
<C:★★>

 全10曲、6曲がアトランタ録音、残り4曲はマッスル録音とタイトルどおりにサザーン・トラックが並ぶLP。とはいえ、南部らしい骨っぽい曲は少ない。この人、AORブームの中で "Cool Night" という曲で一発当てた人だよね(日本のレコード会社の仕込みだっただけの話かもしれないが)。ここでの「ファンタジー」のタイトルもなんだかAOR的なニュアンスなのか、あわよくば当てたいという下世話な欲がどーもオレには見えてしまうなぁ。ルックス的には難あり?チャーリー・ダニエルズを彷彿。

 まあ欲があろうとなかろうと曲さえ良ければなんでもよいのだが、魅力無さすぎ。多少イケるのが "Medicine Woman" という曲で一番AOR的かな、ピーボ・ブライスンをバック・コーラスに配してお洒落(?)に迫る。だが、曲調は ACE の "How Long" に似すぎかもな。
 4曲のマッスル物のうちピートは2曲のみ、どちらもレゲェ・アレンジ。ここでのギターは悪くない。それにしてもマッスル隊としてはポール・サイモンのセッションに続く仕事だったかのような、ポールのマッスル曲によく似た甘いレゲェですわ。
 蛇足/ピート不参加のマッスル曲で、生ギターを弾いているのがオレの大の贔屓ギタリスト、エド・キング(元ストロベリー・アラームクロック、レナード・スキナード)。意外な名前!


#039
"SAILCAT/Motorcycle Mama"
[ '72 Elektra/US]
produced, engineered, mixed by Pete Carr
<B:★★★>

 前に書いた通りピート・カーに関する貴重盤としてぜひ入手したいと思っていたのがこのLP。簡単には手に入らないと思っていたが何のことはない、ふと立ち寄った新宿ユニオンの中古箱に800円で納まっていた。
 マッスル界隈のセッションメンで結成、そのメンバーにピートが含まれ、プロデュースも担当したものとどこかで読んでいた盤、実際は Court Pickett というベーシストと John Wyker なるギタリストの二人がセイルキャット、ようはデュオアルバムでした。曲はほとんどをジョンが書いている。が、2曲はピート・カー単独作品。ピート曲といえばルブラン&カーでのギター弾きまくり/アップテンポ曲で懲りているがここでは非常にメロディアスな佳曲を提供。

 一聴では期待が大きかったせいか、肩すかしを喰った印象だったが二度三度聴くうちに悪くないな、と。とはいえ、そこそこ…名盤にはほど遠い出来。いかにも南部といったゴスペルっぽい曲からもろソフトロック(ピート曲、ストリングス&ハーモニー・ヴォーカルはまるでジム・ウェッブのよう)まで。
 クレジット的には南部連合総結集の趣、カプリコーン勢(Chuck Leavell, Johnny Sandlin, Bill Stewart, Scott Boyer[Cowboy] )、シェルターの Denny Cordell, Don Nix, Marlin Greene、それに Al Lester やら Memphis Horns と。地元マッスルからは Bob Wray, Clayton Ivy が。好事家には豪華なメンツといえるが一般的にはありふれた南部産レコードの一枚のはず…、なのに不思議なのが、このLPは売れたのだ。実は全米トップ40アルバム(最高位39位)。その理由が分からない、何かのタイアップにでもなっていたのか??

 前記74年の傑作、パーシー・スレッジ『I'll be your everything』にはピートとコート・ピケットの共作曲 "Make it good, make it last" という素晴らしいバラッドが収録されていた。てっきりこのセイルキャット・アルバムからのカヴァーと思っていたら、未収録。ピートとコートはソングライティング・パートナーとして他にも曲があるのかもしれない。

 さて、本筋ピートのギターは、John Wyker 自身がギタリストということがあるのかも、これまたまあまあ…あまり弾いていない。しかし興味深いことが。A-1 "Rainbow Road" のラスト、フェイドアウトしていく Twin Lead Guitar のフレーズがまんまロッド『Atlantic Crossing』曲、 "All in the name of Rock'n' Roll" のラストと重なる、同じでありました。
 2曲のインストナンバーがLPには含まれる。共にクレジット上ではピートの名も有り。うち1曲ではかなりいいギターを弾いているが他方はさっぱり…。



#040
"STAPLE SINGERS/
Be Altitude: Respect Yourself"
[ '72 Stax/JP CD-reissue]
<C:★★>

 ステイプルズ "I'll take you there" は72年の全米1位曲。3年前に買ったライノのコンピCDのライナーにはこの曲マッスル録音とあった。なるほど、レゲェアレンジは当時のポール・サイモンのマッスル録音を彷彿させる。AMGサイトのピート・カー・セッションリストには出ていないが Mavis Staples のソロにもマッスル物(ピート参加)あり、ちょい高値でパスした盤…。

 ステイプルズといえばまずこの1曲 "Respect Yourself" 。"I'll take... " も収録されているアルバム『Be Altitude: Respect Yourself』が、ポップ・ステイプルズのシングル1曲をボーナスに日本盤CD化、買ってみた。
 まあこういう「名盤」にケチをつけてはならぬ。海の向こうの大陸の、それも宗教に根ざした尊い方々なのだから。ありがたやありがたや…しかしショージキゆーて曲がいまひとつやなぁ、それほど面白くないヨ。 "Respect Yourself" にしても80年代にイギリスで The Kane Gang のカヴァーしたヴァージョン(ゲスト・ヴォーカルに P. P. Arnold)の方がなんぼかカッコええでっせ。

 アルバム最後曲 "Who" 、あのジェフ・バリーとボビー“モンテゴベイ”ブルームの共作。ライナーを読むとステイプルズ初のR&Bトップ10ヒットもこのコンピのペンだとか。ティーニー・ポップのど真ん中から時代変われば人も変わる? ごっついゴスペルな歌詞曲を書いてます。

 クレジット上は Rhythm recorded At Muscle Shoals Sound Studios のみ、参加メンバーの詳細なし。さて、最初に "I'll take.... " を聴いた時にはこりゃピートのギターだわいと思えたのに今CD通して聴くと怪しくなってきた。お父っつぁんポップ自身がギタリストなのでジミー・ジョンソン、ピートと三つ巴だ(薄〜い音のオブリはピートじゃないかと…)。まてよ、72年のスタックスならばクロッパー兄さんやら Reggie Young の絡みだってありかも。このグループのアルバム全てを聴き通せば解決するかもしれないが…、まあそこまでは追えぬ。
(021024)

 

 

 

 

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