#117
"Delbert McClinton/Plain' from the heart"
[ '81 Capitol/US ]
produced by Barry Beckett & MSRS
<…:★>

 No.70 フランキー・ミラー盤で書いたマッスル制作によるキャピトル盤、それにジャクソン・ハイウェイの盤とも同様なのがこのマクリントン盤。レーベルも同じようにMSSのアルファベットを組み合わせたマッスルショールズ・ロゴが入っている。中古屋で二枚この人のレコを見つけて、これより前のカプリコーン盤でも四人衆参加だったが録りはカプリコーン・スタジオだったのでパス、こちらのマッスル録音盤をチョイス。四人衆による完全マッスル制作盤。 
 聴くのが初めての人で期待したがハズされてしまった…の第一印象。アルバムトップ曲は、意外なマッスル傑作盤であったアンディ・フレイザーLPからのカバーであり、次曲もアンディ/フランキー・ミラーの共作と、なにやらマッスル繋がりな選曲にも若干の期待があったのだが。

 いやそれにしてもこれほど個性のないレコを聴くのは辛い。ボーカル/ハーモニカが本人でリズムはホーキンス/フッド。ベケット、ジョンソンはそれほど弾いていない。その楽器は別名プレイヤーであり、ギターは Wayne Perkins, Billy Sanders のクレジット。パーキンスという人も際だったプレイがない人でね、これぞパーキンス節というギターをついぞ見極めることが出来なかった、ことマッスル関係では。
 ただただありきたりのブルース影響ロックが盤に刻まれているのみ…あたかも南部ローカルなクラブでの「Blues Nite」の夜に期待しないで覗いたらその通りの出来だった、というような…。 "In the midnight hour" をカバー…、全然ガッツ感じられません。唯一の注目はこの曲及び他2曲でピアノを担当する John Jarvis の名前。
 ジャービスはロッドスチュワートバンドの一員として70年代半ばはキーボード席に座っていたはず。そのジャービスとマクリントンの共作曲がB面にあるが、このスローナンバーのみが聴くに値する佳曲。コーラスに Lenny Le Blanc が参加している。



#118
"Luther Ingram
/(If lovin' you is wrong) I don't want to be right"
[ '72 Koko/US ]
produced by Johnny Baylor
<B:★★★★>

 イングラムのレコ、No.95『 Do you love somebody 』に続き2枚目。この72年のセカンドはタイトルチューンが全米3位、大ヒットとなった。イングラムと言うとジェームス・イングラムを思う人が多いだろうからルーサーと呼ぼうか。しかしするとルーサー・バンドロスが…。

 ルーサー・イングラムといえば何はともあれ不倫ソングの決定打とも目されるこのタイトルチューン、というかこれしか知られていないでしょうな。オレもそうでした。ブラックムービーの傑作「ワッツタックス」ではこの曲の歌唱シーンが名場面のひとつとしてつとに有名なんだとか。黒人区 Watts での暴動を端に発した音楽イベント Wattstax 、ワッツ+ Stax なんでしょ?スタックスレーベルの看板アーティスト総出演…なのかな?オレは観てないのですが。 
 ルーサーのレーベルは「ココ」。Johnny Baylor がオーナーのこのレーベルはスタックス傘下に入っていた。まあ単に自身がマネージメントするルーサーのためだけのインディペンデントレーベルなのだろう、ルーサーといえばベイラー…二人三脚で活躍が続いた70年代か。
 気になる話があるのだが…。もう処分してしまった音楽書籍で、70年代の日本でヒットした洋楽シングルを網羅した物があった。中にこのルーサー曲が採り上がられていたがそのコメントには確か、「バックについていたのがマフィアの大物。そのためか大ヒットは出たものの活躍は尻すぼみ…」とそんなニュアンスの言葉だったと記憶する。もし本当ならばベイラーがその暗黒街のフェイスだというんだろうなあ。さて…マジか、ヨタ話なのか…。

 全10曲をマッスルで5曲、メンフィスのアーデントスタジオ録りで5曲と、ちょうど半分づつ。バックは "Rhythm by Muscle Shoals Sound Rhythm Section / The Movement" の表記。ムーブメントというのは…アイザック・ヘイズのバックバンドなのか、それともバーケイズのことだろうか。サイトでちらっと調べたがはっきりしたことは分からなかった。どちらにしろこちらムーブメントもマッスルリズム隊に負けずいい音を出している。スタックスのハウスバンドという位置づけだろう。

 枕が長くなった…肝心の音はと言えば、はやりいい。ルーサーはいい! 黒人臭のキツい重く引きずるボーカルが苦手なオレにとってルーサーの歌はすんなりハマる。といっても軽くはない。軽くも重くもないが“深い”のだ。滋味溢れると言いたい。心に染みる/琴線に触れる…、ま単に趣味なんですヨ。まったくドンピシャな訳ですな。
  ベイラー曲もやはり多いがルーサーの共作/単独作も含まれる。しかし光るのはやはりバンクス&ハンプトン(see No.86)のペンによるナンバー。プロらしい“ツボ”を押さえた楽曲は見事。B面トップの "I'm trying to sing a message to you" が、タイトルチューンに並ぶ出来。2曲目もB&Hトラックで、タム打ちドラムが、ホーキンスのこれがオレの大好物!たまりません。
 ピート・カーの“ワウ”がけギタープレイ代表曲としていいかな、タイトルトラック。ピート的にはこれぐらいで他曲では目立つプレイなし。この盤ではマッスルリズム隊よりもムーブメントのリズム隊が光る。こちらのギターの手堅い仕事がいかにも70年代南部サウンド。まあ全体に 70's Southern Black Music Scene の最良の形が記録されている、これはルーサー盤すべてに言えそうな。

(蛇足1)アーデントでのエンジニアが Terry Manning 。ZZトップ仕事で名を馳せたはずだがなるほどもともとはメンフィスで地道な仕事をしていたわけね。

(蛇足2)ウェブで見つけた記載:
“……最後に歌っているルーサー・イングラムは60年代後半から活躍し始めた黒人歌手ですが、99年に腎臓移植を受け、これを機会に本人の名前を冠した腎臓病の患者を支援する基金を設立して、病気療養しながら社会活動も行っているようです……”





前作72年盤に続く3作目がこの盤だったのにAMGのディスコグラフィには載ってない!何で?

#119
"Luther Ingram
/Let's steal away to the hideaway"
[ '76 Koko/US ]
<A:★★★★★>

 これは名盤、全マッスル盤の中でも白眉。白金の高台に、総工費3億円で計画中の「マッスルショールズ記念館」の玄関脇展示パネルへ入れるアルバムはどれにしようかと思案していたがその最右翼盤が、ほぼ終わりが見えてきたこの時期に出てくるとは思わなかった。やはりこの76年あたりが最高だったな、マッスルショールズリズムセクション=四人衆による最高のグルーブとすばらしい楽曲/歌唱がこの塩化ビニールには刻み込まれている。

 4作目『 Do you love somebody 』同様に完全ジョニー・ベイラー仕切り盤。こちらが前年盤だから先なのだが。ジャケは2作目『 I don't want to right 』に似て、内容は『 Do you love somebody 』に似ている。
 全曲のライティングにベイラーは絡み、とにもかくにも“オレ様”盤。“オレ”以外のクレジット、録音スタジオがどこかも、ホーンはキャロウェイ/トンプソン/イーズ/ローズのマッスル・ホーンズだろうがそれも無し。エンジニア(もちろんマスターズ/メルトン)もない。

Produced : Johnny Baylor
Arranged : Johnny Baylor & John V. Allen
Rhythm track : Muscle Shoals Rhythm Section
Background vocal : Pat Lewis & "Group"
Vocal over-dub : Media sound studio, New York City, NY
Kingdom sound studio, Syosset, NY
Re-mix engineers : Johnny Baylor & Harvey Goldberg
Photography : Johnny Baylor
Art Direction : Johnny Baylor
Creative Direction : Johnny Baylor

 クレジットはこれだけ。しかしスタジオはマッスルサウンドであり、バックが四人衆にピート・カーであることを断言しよう。センター位置のリズム隊/ホーキンス&フッドの腰の据わった音に感涙、右チャンのピートのギターはタイトルトラックで素晴らしいプレイを聴かせてくれるのを始め、随所でいい弾き。左のジミー・ジョンソン、まことに地味なのだが縁の下の力持ちとはこれ、ボトムを支えるギターが絶妙ですな。3〜4曲では別ギターがセンターちょい右寄りに聴こえる。さてヒントンかケン・ベルあたりか…。アコピアノ、エレピ、ハモンド、それにシンセとキーボード全般のベケットも最高ですわ。

 マッスルにハマるシンガー、いままで一番はボビー・ウマックと思っていたがどうだろう、この盤を聴かされるとイングラムこそピカ一かもしれない。

 しかし思えばこのパフォーマーとスタジオとの、スタジオミュージシャンとの最良のコラボレーションは黄金の70年代を頂点として前後10年をどうにか入れたとしても、もはやはるか彼方の夢物語になりつつあるのでは。音楽を作るモチベーションの高さとマンパワーの強さががっちりとタッグを組めたこの頃のレコを聴けるのは嬉しくもあり、どこか寂しくもあり。
(050724)




#120
"Swamp Dogg
/Total Destruction to Your Mind"
[ '70 Canyon/US ]
<C:★★>

 なかなか出てこなかったスワンプドッグ盤をやっと1枚入手。

 顔/体型がバリー・ホワイト似。バリーばりの低音で迫るかと思いきや、声高し。ちょっと細身のシャウターを想像させる、そんな声だった。かなり熱いシャウトぶりで南部ローカルの人気シンガー…なんてのもハマる想像だな。
 そうそう、ディ〜〜プにローカル、力一杯「ローカルな」アルバムです、これ。驚くほど。なにがローカルといってこれほどチープな盤もそうは無いと断言できる。これは本当に正規盤なのだろうか、パイレート盤を買ってしまったのかもと思わせるほどチープな作り。表裏スミ1色の簡素なジャケ。表フォトはズボン履いてないよ、このおっさん…。
 一応表に "Canyon" というロゴが入ってはいるが裏は曲目表記以外には一切無し。もっと驚くのが“背”、普通の盤ならば小さく読み難くともアーティスト/タイトルが必ず入るところ、この盤は無し、白まま。ブートだってもう少しマシな作りですよ。
 レーベルに少しだけ情報があった。驚くのはこのレコ会社がマイナーレーベルながら… "Canyon Records Inc. Hollywood, Calif."、ハリウッドですと。なのに録音がカプリコーン・スタジオとはこれも驚かされた。
Studio : Capricorn Recording Studios, Macon, Georgia
Prod. by Jerry Williams, Jr. / Arranger : Jerry Williams, Jr.
Engr : Jim Hawkins

 完全モノラル盤というのも驚かされるというか、チープですわなぁ。スペクターじゃあるまいし、意図してのモノとは思えない。マスタリングエンジニアがミスっただけじゃないのかと思えるほど。

***
 スワンプドッグのセッションにはほぼ皆勤でギターを弾くピート、いや Jesse Carr 名義での参加であるはず。その事はこのサイトをやってきて知ったこと。いままでに、No.50 Freddie North 盤、そして No.89 Z. Z. Hill 盤、No.103 Irma Thomas 盤と続いてきた。で、ここで初の自作盤となるのだがパーソネルクレジットが無い。なのにこれまた驚かされた!なんとAMGを見るとこの盤のパーソネルが載っている。(これはどういうことだろう?)
Jesse Carr (gtr) / Paul Hornsby (kbd) / Robert Popwell (bass) / Johnny Sandlin (dr)

 まあ理由はなんでもいいがこれを信じるとして、そうなるとかなりアーマ・トーマス盤に近いメンツ。…と思いきや、もっと近い…ではなくまったく同メンツ盤を思い出した。このサイトでは1ページ目に紹介したリビングストン・テイラー盤だ。スタジオも同じだし、エンジニアも、そして年次も同じとは(但し盤には年次記載なし、AMGによる)。

 ピートに与えられたトラックはほぼ全曲でふたつ。コードカッティングにワントラック。もうひとつはワウだったりリバーブをかけていたりでオブリを弾く。唯一リードらしいのはラスト曲のブルースナンバー。デュアンのギターにも似た“オブリがかったリード”プレイ。悪くはない、がやはり70年だな、まだまだです。

 さてと、肝心の内容はと聞かれれば非常に悩む。駄盤か名盤か…。今の気分を正直いえば、たいした盤でなし=曲に魅力が感じられない。しかしいつの日にか、オレの心情がころっと変わってこの盤に涙するかも…とそんな事を考えさせるほどいい味/ディ〜プさ、イナタさが目一杯な盤でして。アメリカ南部を自分の足で旅することがあればきっとそんな気分にさせられるだろう、とかさ。



#121
"Swamp Dogg/Rat On!"
[ '71 Elektra/US ]
<B:★★>

 出る時は出る、続いて翌年盤もゲット。こちらはメジャーなエレクトラから、ドアーズと同じレーベルですわい。メジャー盤ゆえクレジットはしっかり有り…ホーンズビィ/サンドリンのコンビは抜けてもピートとポップウェルはそのままで、録音はこの人の“シマ”=Quinvy Recording Studio, Muscle Shoals, Alabama 。

 あ〜〜、と。そうね、こっちのほうがいい、ステレオだし(笑)。全体にポップウェルのベースがシンコペ効きすぎな点だけ気になるなあ。ピートのギター、オブリばかりなのだがなかなかに味わい深し。

 基本的には前作となんら変わらない音ですわ…イナタい、スロー/ミディアム/アップなシャウト・ナンバーで構成。差異は単なる個人的な曲の趣味だけとなる。で、オレにはこちらが趣味。いやそれって、ステレオ録音のため音の分離/ツブ立ちが良いから全体に良いと感じているのかも。

 ミッキー・ニューベリィとビージーズ、2曲カバーで残りはすべてオリジナル曲。曲作ってプロデュース/アレンジ/キーボードも、声もよく出るし才能のある人なんだよなあ。けれども残念ながら「今の」オレにはスコ〜ンとハマる人では、ない。ただこの盤もいつの日にか…ボクがもっと大人になったなら(?笑?)。



#122
"Z. Z. Hill/Velvet Soul"
[ '82 Malibu/US ]
produced, arranged & nurtured
by Jerry Williams, Jr.(The Swamp Dogg)
<C:★★★>

 これもスワンプドッグがらみの盤。No. 89 のマンカインド盤も同様に彼のプロデュースによるZZヒル盤だったがそれから随分と間が空いた82年盤。で、録音がマッスルの Broadway Studio の名もあるが他にカリフォルニアの3ヶ所も、マッスルホーンズの四人衆とピートが参加だが他のメンツは誰やら…と、どうにも変な、手触りの悪い(ジャケも悪い)盤。
 実は年次記載もなく、いつ頃の盤かも分からずにいたので板で問いかけたところ、ありがたや、ご返答頂けた次第。で、トップに収録の曲 "Faithful & True" というのが、Quinvy Records から出されたシングルでそのオリジナルはマニア垂涎盤ということも教えてもらう。Quin Ivey がスタジオを作りレーベルを運営していたのは60年代始めだろうからそれはかなりなレア盤でしょうな。
 となると、この盤はそれらレアシングルのコンピレーション?…の線もあったが、聴けば全体に音が統一されていること/表記の Broadway は Quinvy Studio が70年代に改名した後であること…総合判断としてこの盤はリレコ (re-recording) である、82年新規録音盤となる(第一に音がそんなに古くないワ)。ヒルは84年4月に亡くなっている、ならば最後期の一枚か。

 その1曲目からエッジの聴いたギターをバックに低い声で力のこもった歌唱…内容は、見た目の悪さを払拭するなかなかの快作といえそう。2曲目がカバーで69年全米4位、ジャッキー・デ・シャノン自身としては最高位に上がった自作ヒット曲をヒルが歌う、"Put a little love in your heart" 。
 その後もかなり“熱い”歌/演奏が続くのだ。が、ZZヒルという人を聴き込んでないので何ともいえないが、少なくともマンカインド盤よりも声が出ていない/高音域が辛そうに聴こえる。体力が落ちていた時期? それと、始終歌に寄り添ってかなりディストーション効かせたギターが聴けるけれどこれもちょっと違うような…。
 そのギターは…。クレジットではギターは Guitar/Sitar: Bob Etoll, Guitar: Pete Carr 、ふたり。(シタールとはもちろんエレクトリックです)、そのボブ・イートールがほとんど弾いているんじゃないかなあ。80年代となるとピートの参加盤もそうはなく、比較できないがこのディストーションはピートの趣味からは遠いはず。

 面白い1曲あり、B面3曲目 "I think I'd do it"。この曲、ものすご〜〜く、サウス(トゥ・サウス)時代の上田正樹に聴こえる/ヒルの声が似ている! 演奏もまんまサウスのよう、特にギターのカッティングはクンチョウまま。いや、「まま」は変か、サウスというバンドがここら南部音楽をそれこそディープに、ディープに聴き込んでいた証しだな。サウスを知る者にブラインドで聴かせればまず「おお、懐かしきサウス!、何これ?未発表曲?」と言うだろう。
(thanx to Nakagawa)





ドン・デイビスのプロデュース盤、2枚紹介。

#123
"Larry Santos/Don't let the music stop"
[ '77 Casablanca/US ]
produced by Don Davis
<…:★★★>

 AMGには、生まれ "Jun 2, 1941 in Oneonto, NY" としかないこの御仁もこの頁では2度目の紹介。No. 73 盤がそれで、これはその翌年にやはりカサブランカから。
 前作がべたべたに甘いラブソング集であったが、ここでも渋い歌声でねっとりと歌うところはなんら変わりなし。いきなりの1曲目は "I am the singing troubador"、我こそは歌う吟遊詩人なりとのたまう御仁なのだった。
 あまりミュージシャンを感じさせない人、なんだか俳優が曲も書ける(この盤では11曲中6曲が自作)ので歌ってしまいました…そんな気分にさせるサントス兄ぃ。なので、この盤もマッスルなのだが、なぜマッスルを…本人の希望ではどうやらなさそう。録音はマッスル/デトロイト/トロント。ピート参加ではないので無視してもよいかと思ったがそれでも取りあげた訳は、そしてマッスルに拘る理由はプロデューサーにありと見たから。

 ここにきてマッスルひいき筋に Brad Shapiro の名が外せない事実をつかんだが、この盤の Don Davis もどうやらひいき筋とみて間違いない。デルズ盤(No.107)に書いたが、デトロイトベースらしいインディペンデントなプロデューサー氏はかならずデトロイト/マッスル、1枚の盤のなかで録り分ける“癖”があるようだ。ジョニー・テイラー(No. 044)もドラマティックス(No. 114)もそしてこのサントスの2枚もまったく同様。今後も注意して見て行こう。

 内容は…バリー・マニロウほどじゃないが極甘ポピュラーシンガーもどき。それでも光る1曲(B−1)がある。これはなかなかに素晴らしい。ちょっと変わったメロもいいが、バリー・ベケットのシンセが光る。ちなみにこのアルバムにはマッスル四人衆は全員参加。 ベケットの、口では説明しにくいがキラキラと輝くシンセの“得意フレーズ”があるのだ。それがこの曲でもいいアクセントになっている。過去、ウェイン・ベリー/ロッド…それとどこだっけなあ、何度か聴かされたフレーズなんだよね。



#124
"Johnnie Taylor/Eargasm"
[ '76 CBSソニー ]
produced by Don Davis
for Groovesville Productions Inc.
<…:★★★>

 邦題は収録のヒット曲からで『ディスコ・レイディー』、さて原題は…読めます? これ、いわゆるひとつの…“オーガズム”、性的興奮の、あれなのです。今の感覚からするとエラいタイトル付けたもんだ、だが当時なら?それにアメリカでは?…いやいや、やっぱり変でしょ(笑)。
 このアルバム、数多いジョニー・テイラーのレコで一番売れた。ビルボードのブラックチャート1位/ポップチャートでも5位を記録、英米でミリオンセラーに。シングル「ディスコ・レイディ」はもっと凄い。ブラック/ポップともに1位で、この曲はなんと栄えある“プラチナ・シングル”の第一号。RIAA(アメリカレコード協会)が新設した200万枚以上売り上げたシングルに送られる「プラチナディスク」の初受賞がこの曲だった。

 なるほどディスコ時代到来でうまくブームに乗りやがったな、と…オレも最初思ったが、聴けばそれほどディスコっぽいナンバーではなかった。なんだっけなぁ〜、当時日本の曲でこれにそっくりのがあったんだよなぁ。 女性コーラスで "Ahhh... Ahhh.... Chic! Chic!" と入る箇所、これってシックの「おしゃれフリーク」の元ネタでしょ。

 ドン・デイビスのお約束で録音はデトロイトとマッスル(歌入れのみダラス)。76年はピートにとって最良の時期なので期待したら、残念、不参加でした。マッスルでのギターはジミー・ジョンソンしかクレジットがない。
 全体にはミディアム主体でなかなか気分のよい盤ではある。しかしかなり「都会の」音だよなあ。アーバン・ソウルだ。なかに "I've got to use my Imagination" (see detail on #018 ) に似た曲もあるのだが、マッスル代表曲もここでは洗練されたアレンジへ。ここら、デトロイトの(ファンク兄弟?)David Van De Pitte がアレンジャーなので南部らしさはそれほど感じられない。
 マッスルでは四人衆全員参加。いくつかの曲のドラムがロジャー・ホーキンスかとも思える程度、基本的にはデトロイトサウンドな一枚でした。





#125
"Rabbit/Broken Arrows"
[ '73 キング : originally UK Island Records ]
produced by John Bundrick
<C:★★★>

 ピート・カーのドブロを配して“ロングヘアーの小僧、オイラだがね、家をおん出てロンドンまでやって来ただよ…”とカントリーで歌えば、その次はヨーロピアン・ゴチック風、ピアノ/ハモンド/ムーグ/クラビネット/メロトロンまでキーボードを重ねに重ねて Moody Blues ばりに迫る。そのお次は一転ブルージーなインストだったり…。かなりとっちらかった、そしてアメリカンでもあってヨーロピアンでもあるこのLPは、このラビットの出自およびアルバムの背景を如実に表している。
 …枕をふったところで、いったいラビットって誰?、かな。いや、バンド?という疑問すらわくだろうから、ハナから説明していこう。

 ブリティッシュ・ブルースロックの名バンドだったフリー、71年にはあっさり(一説には女の取り合い…)解散。しかし残党がアルバム制作を企画し、そこに参加したのがこのキーボーディストの“ラビット”。(ちなみに70年代半ばに米カプリコーンから数枚のLPを出したバンドは Rabbitt 、tがひとつ多いから注意!) そのアルバムは『コゾフ/カーク/テツ/ラビット』と題された。残党ポール・コゾフとサイモン・カークがイギリスでぷらぷらしていた?/バリバリ売り出し中だった?、日本人ベーシストの山内哲夫とラビットを誘って制作。その後、一応再編扱いとなったフリーのLP『ハートブレイカー』へもラビットは参加。
 ところでこのラビットは、本名ジョン・バンドリック、アメリカはテキサスの生まれなんだよね。スカンジナビアへと流れ、その後にロンドンへと舞い降りた。それ、Johnny Nash ("I can see clearly now" fame)からの紹介で、どうやらロンドンへと来ていたボブ・マーリー&ウェイラーズのセッション仕事だったらしい。つまりここでアイランド・レコードとの関係が出来たことになる。

 そうなんです、実はこの盤、ピートが参加と資料にあったことと、何度も書いて来たアイランド=マッスル・ライン上にある盤ゆえにかなり期待していたのだ。ところが、その期待はかなり裏切られた。たしかにピート参加、エンジニアで Jerry Masters の名も見える。が、録音はすべてロンドン、Island Studio 。ミックスのみがマッスル・ショールズとなっている。それもミキシングはラビット本人の表記。ピートはエレキで1曲/アコギ&ドブロで1曲、都合2曲のみの表記。
 哲とカークも参加。それとレーベルメイトの Traffic からリーバップ/ジム・キャパルディも参加。となると、どうやらオレの推測では…キャパルディあたりのアイランド盤のソロのセッションで渡英中だったマッスル勢からピートとマスターズだけがこのラビット・セッションに参加、そしてトラフィックのメンツと一緒にアラバマまで飛んだラビットは(なぜか)そこで自身のマスターテープをミキシングした…こんなところでしょうな。

 ピートは、ドブロは確かに聴こえるがエレキはさっぱり、リードギターは Snuffy なるギタリストがすべて弾く。ピート/マッスル的にはがっかりな盤だったが、内容は結構イケる。特にA面はなかなか佳曲ぞろいでグッド、対しB面のクオリティが低いのが残念だ。 この人、ライナーに48年の生まれとあるからこの時点で25才、顔も若い。顔もそうだし全体の雰囲気もジュリアン・レノンに凄く似ているように感じた。ジュリアンほど声が出ないのだが…。
 そう、いかにもバイ・プレイヤーのソロらしく、曲の出来は結構いいのに歌の弱い点がマイナス。でもこんなもんでオーケーでしょう、こういうアルバムが出せた時代が良かったのだ。実際このラビットはかなりのメロディメイカーで、死ぬまでの付き合いとなったポール・コゾフのソロ及びその延長だった Backsteet Crawler のアルバムでも演奏/曲提供、かなりよい曲を聴かせていたのだった。

 本人のプロデュースではなくて、それにしっかりしたアレンジャーがついたならばもっといい出来になっていたね、きっと。一応全曲オリジナル/アレンジも本人とはなっているが、ことアレンジに関しては本人がキーボードを弾きながら参加メンツに聴かせて、あとは各自で好きに演奏してちょーだい、それで終わっているのが見え見え(聴こえ聴こえ?)。ヘッドアレンジと手癖の域を誰も抜けていない。







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