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最後に、この人には70年代に歌ってほしかった/取り上げてもらいたかったなぁ…という名前を挙げたい。まず、マッスルショールズをひいきにして幾枚も名盤を出してくれたシンガー、ルーサー・イングラム。なぜ歌わなかった! と責めたいぐらいの気分^^。ひいきといえばワタシの大のひいきのジョニー・リバースも。エンタメ/ショービズの海を泳ぎ切ったリバースもしみじみとこの楽曲が歌えたことだろう。最後は、亡きフィービ・スノウ。一度は浴びたスポットライト…そして挫折…フィービこそもっとも相応しいシンガーであったと思えてならない。バリー・ベケットがプロデュースした盤もあったフィービ。そこでは《do right woman, do right man》を歌っていた…ベケットよ、なぜフィービにこの曲を提案しなかったのかと惜しまれる。

 

 

youknow

 

 

130206

rodLP75年。ここで真打ち登場、ロッド・スチュワートによるカヴァーによってこの曲は広く知られることとなった。なにしろ世界的なビッグスターの、それも大名盤にして大ヒットアルバムに収録。【大西洋渡り】と題された通りに全面的アメリカ進出の契機となった盤で、録音はアメリカの西・東・南の五カ所とクレジットされている。南はもちろんマッスルショールズ・スタジオ。ゴフィン/ゴールドバーグに続いてマッスル録音…マッスルショールズを代表する楽曲たる《it's not the spotlight》といいたいところだが…。

たぶん最初はマッスルで録ったと思う。ロッドが過去にこの曲を知っていた/聴いていたとは思えないンだな、たぶんマッスルでのセッションのなかでスタジオの誰かが「こんな曲があるがどうか?」と提案したんじゃないか。で、録ってはみました…が、いまひとつ出来に満足しなかったトム・ダウドがロスでリレコさせたのだとワタシは思う。そしてそれが見事に功を奏した…ダウドの提案は "unplugged" だったかも。

録音予算も潤沢なはずのロッドのテイクが一番シンプルというのが面白いし、これが実に味わい深い…素晴らしいテイクに仕上がった。ベースこそエレクトリックだが他はアコギ三本/ドラム/マンドリンだけ。曲毎でなく一括パーソネル表記のLPだがワタシの想像は:

Willie Correa (drums), Bob Glaub (bass), David Lindley (mandolin) で、アコギのリードパートは Fred Tackett /残り2本は Pete Carr

マッスルショールズ・ギタリストのピートだがこのアルバムセッションではロスへも出張って弾いている。

2009年に deluxe edition として二枚組CDとなり、この曲は alternate take も収録された。これはマンドリンを抜いただけ(オーバーダブ前?)、聴く価値はほぼない。

 

kimCarnesLP76年の春先、またもやマッスルスタジオにてこの曲が録音された。このの81年に全米1位となる大ヒット《ベティ・デイヴィスの瞳》(ジャッキー・デシャノン曲カヴァー)を放ったキム・カーンズだが、この時はまだ知る人ぞ知る存在。3枚目の録音で、ジェリー・ウェクスラーがマッスルへ連れて行った。マッスルショールズスタジオ/四人衆にピート・カーのバック…鉄壁の布陣。ピート・カーはこれで同曲のなんと4度目の録音! 始めてリードギターを担う_得意のダブルトラックで全編弾き続ける。期待のテイクであったが…マッスル勢の演奏は悪くないンだが、全体にあっさりというかピアノや弦も含めてそつなくまとめた感じ、今ひとつなのだ。どうも旦那のデイヴ・エリントンがしゃしゃり出てアレンジに噛んだと思われる。

 

同年、日本からも〝参戦〟。浅川マキは自身で訳詞をつけて歌った。

asakawaMakiこの録音に際して彼女は「ボビー・ブランド・テイクを聴いてこの曲を歌う気になったがロッドに先を越されてしまった…」と語ったらしい。確かに渋いボビー・ブランドとはいえ、収録はロス録音/スティーヴ・バリ・プロデュース盤、それにロッド盤まで…彼女のイメージとはそぐわない両盤なんだが…意外やかなり聴き込んでいたことに驚かされる。

荻窪『あけたの店』での一発録り。客入れ無しの擬似スタジオライヴというところ。

角田 順・萩原信義 el-g/杉浦芳博 ac-g/白井幹夫 piano/吉田 健 bass/つのだひろ drums/坂本龍一 organ 

ヨシケン、つのひろ、教授とは豪華な布陣。杉浦は元 NORA 。

7分近い長尺での名演、名唱。直訳もハマっている。ただひとつ、これは個人的趣味の問題だがワタシはつのひろのドラムが嫌いな上に…ここではボビー・ブランドのつもりなんだろうなぁ、リフ部分はひろが英詞で歌う、いやガナるのだ。ここが辛い。

BuxBunny翌77年に、金子マリが浅川マキの訳詞ヴァージョンで取り上げた。バックスバニーのライヴ盤で。マキ・テイク同様の長尺。2コーラス目まではマキをなぞるように素直に歌うがその後は自慢の?…フェイクに突入。これはダメなのヨ、ワタシは。永井充男さんのプレイはさすがの一言、決まってマス(→ Talk Session #14参照)。

 

 

freddyfloatinTop同年にはマッスルの地でも録音されている。いったい何度目やら。やはりこの曲は「マッスルショールズを代表する楽曲のひとつ」としていいな。かなり通好み、ディープなサザンソウルシンガーであるフレディ・ノース盤【Floatin'】に収録。マッスルだが、Fame でもなく Muscle Shoals Sound でもなく、この人のベースはもうひとつのマッスル在スタジオ、クインヴィ・スタジオ。77年の時点ではオーナーも代わり、名称も Broadway Studio となっていた。

バックは:Randy McCormick, Travis Wammack, Steve Gooch, Lenny Le Blanc, Jimmy Evans _ワタシが「マッスルBチーム」と呼んでいるメンツ。

クライテリアで Mike Lewis によるストリングス被せと思われるがその音量が大きいのが難点。バック演奏はパーカッシヴですごくいい分、惜しい。フレディの歌も、ボビー・ブランドよりずっとイイ。バディ・マイルスよりもイイのでブラックとしてはベスト。

 

manhattanLP78年には NY から男女混声も。マントラ。ただし収録盤【Pastiche】はNYではなくロスの録音_スティーヴ・バリ・プロデュース盤。なので、ボビー・ブランド/テッド・ニーリー盤と絡みそう。ここでもマイケル・オマーティアンの名前がある。そしてこのテイクはロッド・スチュワートともからむ。というのはバックの音がロッドの同年盤【a night on the town】に酷似。それもそのはずで、このテイクのバックは:

Booker T. Jones (org) Richard Tee (p) Ira Newborn (ac-g) Steve Cropper (el-g)

Donald "Duck" Dunn (b) Willie Hall (ds)

ロッドもメンフィス・グループ、 MG's をロスへ呼んでの録音であったから、立て続けのセッションではなかったか。仰々しく歌い上げているマントラかと思えばさにあらず、実に伸びやかに朴訥に歌う…これもいいテイクです。ロッドは、【atlantic crossing】での unplugged version もいいんだが、このバックトラックで歌っても相当イケたと、思うヨ。

 

ここまでで「ノット・スポット・フィーヴァー」は一旦終了。で、時間が開いて99年に久々のカヴァーテイク…ベス・オートンという英国女性SSWが【Stir of Echoes】という映画のサントラのためにアコギ弾き語りでカヴァー。まったくギターのピッキング一本で歌う。最も素朴なテイクとはいえ、個人的にはさほど感じるモノなし…。

andrewStrongそれよりも、英国からの第二弾、2000年のアンドリュー・ストロングのカヴァーがいい! 現時点で知りうる最新カヴァーがこれ。アンドリュー・ストロングとは、91年の映画『ザ・コミットメンツ』(アラン・パーカー監督作)に出演した俳優のようだ。映画はアイリッシュの Band 話らしく、そのバンドのヴォーカル役を務めたとある。そのアンドリューが出した【Out Of Time】というCDはストーンズの同曲から始まり、BST, dylan, CCR, Motown, Isleys... 6〜70年代のカヴァーアルバム。そのなかの1曲が《it's not the spotlight》。名の通り骨太、武骨な歌いっぷりでなかなかの出来に仕上がっていた。

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蛇足として書いておくのは歌詞のこと。

基本構成は 3 verses and refrain _。しかしロッドのように 3rd verse を無視しているシンガーもいる。

リフの頭…

It's not the spotlight

It ain't the candlelight

「それはスポットライトではない/それはキャンドルの光でもない…」

歌詞検索ではこうなっていることが多い。しかしゴフィン、ロッド、キム・カーンズの盤には歌詞カードがあり、それでは2行目は "camera light" となっている。微妙な発音だが確かにそう歌っている。「スポットライト」はエンタテインメントの象徴であるならば「キャンドル」はちょっと変でしょう。ここは「カメラ」=ショービズのフラッシュライト…のほうが、それを否定してこそ繋がるし深い歌となるはず。ここは注意して聴く必要がある。

なお、米俗語の be動詞否定= "ain't" は、もうばらばら。ゴールドバーグは1度も it's not the spotlight と歌わずにすべて it ain't the spotlight 。これは個人個人の「口ぐせ」でしょうな。

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140910_追記:

 

CarmenMakiCD日本の女性シンガー第三弾が2年前 2012にあったことを知った。なぜ女性ばかりが歌う?_マキでマリで、今回はカルメン・マキ。

金子マリ同様に、浅川マキの訳詞ヴァージョンでマキも歌った。(浅川マキとは「寺山修司」という共通項を持つカルメン・マキ)

さて、ワタシには金子マリのそれ以上にその歌い上げ唱法が苦手なカルメン・マキということでほとんど怖いモノ見たさで聴いてみたが…。OZ時代とは違っていた、なにしろ2012年録音だし。これは!…という出来ではない(まったく個人的な感想デス)が、想像したより良い/悪くない。スタジオ収録とはいえ一発録音でノー・ミックスだそうな。ライヴ感にあふれている。歌に寄り添うギターは素晴らしいオブリガード。ノン・エコーの歌声、アコースティックのベース含めて全ては very earthy...(しかし「アーシー」なんて言葉あるのか?)。

 

 

なおもうひとつ発見。浅川マキのテイクは76年盤【灯ともし頃】収録をすでに採り上げたが、2年後に発表された京大西部講堂におけるライヴ録音盤【浅川マキ・ライヴ・夜】でもこの曲は歌われていた。バックメンツはほぼ76年盤と同様と思え、その盤もライヴハウス一発録りであったから、ほとんど変化はないテイクだった。日本語をかみ砕くように歌う滋味はすごくいいんだが、ここでも英語のリフをつのひろ先生が…。ここでダメ出し。