期待の2枚のはずだったが…。

#047
"Boatz"
[ '79 Capricorn/US]
produced by Pete Carr
<C:★>

 AMGサイト/ピート頁に、ピートがプロデュース/ギター担当、キャプリコーンからのアルバムとあったのでさぞや南部色の強いブツだろうと期待していた盤を入手。これがまあビックリ仰天、南部のナの字もない代物であったとは…。

 パンクとディスコの嵐はアメリカ音楽業界を一変させたんだなあ。サザンロックブームもすっかり吹き飛ばされた79年に、キャプリコーン・レコーズが考えた生き残り策のひとつがこれ、超ポップデュオアルバムと相成った。その曲は後期ビートルズ風、10CC風、スティーリーダン風…売れさえすれば何でもアリなのか(売れなかった)。オレの個人的期待が外されただけかと何度か聴き返したがやはり何の魅力も無い楽曲が並ぶスカタンな出来、いかんともしがたし。

 ボーツ(の読み?)とは Thom Flora & Gary Baker のデュオ。確かにピート・プロデュースであり Guitar: Pete Carr とクレジット、ならばアコギもエレキのダビング(曲によっては4本ぐらい重ねている)もすべてピート一人だな。全編にギターは弾きまくりですごいゾ。当然A評価? いやいや箸にも棒にも掛からないそれはどれだけ弾いても評価とならず。いったいこのギターが本当にピートなのか…、『Atlantic Crossing』でのギタリストと同じとは信じられない変化、スティーブ・ルカサーか、マイケル・ランドーか…ってな最低なプレイである。

 前にレニー・ルブランも最高のファーストと最低のセカンドと書いたが、この時期のミュージシャンはホント辛かっただろう。メジャーレーベルに踏みとどまるためにあがくか、レーベル落ちもやむなしとあきらめて好きな事をやるかの二者択一。ピートとしては売れ線ギタリスト/プロデューサーへの転進を図ったつもりかもと、このアルバムからは思えてしまった。

 

#048
"Courtland Pickett / Fancy Dancer"
[ '73 Elektra/UK]
Produced by Pete Carr
<C:★★>

 ピート・プロデュースによる Sailcat のメンバーであったコート・ピケットが翌73年に発表したソロがこれ。セイルキャット盤が思いがけず(?)売れたことに対しての御褒美か、続けてメジャー・エレクトラからとなっている。そう簡単には入手できないと思っていた盤の上、裏ジャケ・クレジットには all songs written by Pete Carr & Court Pickett とあったので、レニー・ルブランのファースト並みの出来を期待したら、前盤「ボーツ」同様にコケてしまった。
 ピート・プロデュース/73年の全曲マッスル録音/四人衆&ピートのみでバック、その上に全曲がピート共作と、ここまで完璧な外堀りだってのに…何でこーなるの? ちょい甘めの声といい、この人の指向はかなりポップに傾いている。南部臭は極力出したくなかったンだろう、録音も本当はロンドンあたりでやりたかったんだという声が聞こえる、そんな音/アルバムなのだよ。

 セイルキャットと違ってこのアルバムではギターはピート/ジョンソンのみ。よってリフ、リード共にピートが確かに弾いているが、73年にしてこのつまらない音ってのにも納得できない。まあ曲が曲なので仕方ないか。ん?ピートも書いてるってのにそりゃおかしい!?
 セイル盤に収録かと思っていた "Make it good and make it last"、パーシー・スレッジのカヴァー(page-3 参照)が素晴らしかったナンバーだが、ここに収録でアルバムのトップを飾る。やはりこれがベストテイクではあるが、それでもパーシーのヴァージョンには遠く及ばない。

(蛇足:コーラスに Jo Ann Carr なる名前が。ピートの妻?兄妹?)
(021220)

 

********

ん?最新のピート参加盤か?

#049
"Gerry Goffin / Back Room Blood"
[ '96 Genes CD Co. /US CD]
<C:★>

 Adelphi レコードからのソロが73年、以来23年ぶりに出たセカンドということで一部好き者の間で話題になったゴフィンのCD、そうだった、CD時代に聞く懐かしい名前であった。少しは変わっているかと人から借りて聴いてみたのは4〜5年前、が相変わらずのディラン節=「丸投げ唱法」にガッカリした記憶。そんな盤もAMGサイトによればピート参加盤という、「マジ?」と思いながら再度借りてきました。マジならばほぼ最新のピートのプレイが聴けるはず…。

 なーるほど、ライナーのプレイヤー・クレジットにはしっかりと Pete Carr もありますなあ。のみならず Jim Evans, Eddie Hinton, Paul Hornsby, Jerry Masters ら懐かしい名も。おかしい、懐かしすぎる!ヒントンはこの時点では亡くなっていたのでは? 録音スタジオにマッスルもあるがその他が6カ所。う〜む、分かった、つまりマッスル録りは96年ではなく遠い昔、ファーストの73年かせいぜい75年頃までに録った音だろう。そのテープに差し替え、ダビングをしたテイクの幾つかをこのCDに収録したとオレは見た。プレイヤークレジットもその当時を思い出しながら「確か奴も居たよなぁ…」程度の記憶によると思うね。(96年録音でのイニシアティヴはラルフ・シュケットだろう、奴が書いた曲の音像は新しい、70年代の音じゃないわ)

 まああらためて聴くまでもなかった、トホホ盤である事実は変わらず。魅力無い楽曲が並ぶ上に大嫌いな歌い方、正直ヘキエキ。ピートのギターもまるで分からない。もしかするといいかげんなライナーゆえに不参加かも…。
 ただ唯一の救いはラストナンバー "I've got to use my imagination" 自演ヴァージョン。ファーストに入るべきだった曲だが、ピップス・カヴァーに劣るものの曲自体は抜群。ここではなにやらマッスルの香りが。リードギター、もしやピート?それともヒントン? どちらにしろ20数年前だろう。

蛇足:「ずーっと昔、キャロル・キングとこんな有名曲を書いていたオッさんでっせ〜。別れた後もダイアナ・ロスやらホイットニー・ヒューストンのこんな大ヒット書きはったオヤッさんや〜」…なんとも最低なライナーノーツ、これをなんでオーケーとしたのやら。このCDを買う者には周知の事、それらのお仕事とは別の次元でのソロアルバムだってのに…。このジェネスなるレーベル、場所からするとファーストを出したアデルフィ・レーベル?その改称? 何にせよデザイン含めマイナーな作りのCDであることヨ。
(021225)


 

#050
"Freddie North / Friend"
[ '72 Mankind/US]
<A:★★★★>

 中古盤屋のブラックエサ箱にあった一枚、そのジャケ写顔はNYヤンキースの永久欠番プレイヤー、Mr. October ことレジー・ジャクソンに酷似…なにやら臭ってきたの裏ジャケに返してみれば、Guitar: Jesse Carr の文字、これはビンゴだ! さっそく買って帰宅。

 ピートがオールマン兄弟とのバンド Hour Glass に参加時は Jesse Willard Carr 表記、本名だろう。この名や Jesse Carr 名義でのセッション参加盤も在るとは聞いていたが実際に入手はこれが初めて。ジャケにもレーベル面のどこにも発売年が無いこの盤。70年の Livingston Taylor のファーストでも既に Pete Carr 名義なのでこのフレディ盤は69年頃と想像していた、ところがAMGサイトにはしっかり出ていて、なんと72年、意外も意外、この時期にセッションによって名義を使い分けていたとは。
 「マンカインド」なる超マイナーレーベル、ディストリビュートがナッシュヴィルの Nashboro Records とある。内袋はナッシュボロのリリース紹介だがその大半がゴスペル関係、そこで、このフレディ・ノース盤もディープな南部のみを顧客とするゴスペルレコードの一枚と見た。ところがこれまたハズレ、AMGサイトはこのアルバムからのシングルがチャート10位までアップとある。(いったいどのチャート? まさかビルボードのR&B?)

 録音は Sheffield, Alabama の Quinvy Studio、弦のかぶせがフィラデルフィア、マスタリングがナッシュヴィル。マッスル四人衆の名はまったくないが、ベースに(Sailcat、それにソロもピート・プロデュース)Court Pickett、オルガンはあの Chuck Leavell。全10曲のほとんどがアルバムのプロデューサー/アレンジャーである Jerry Williams なる人のペンとなっている。全曲でピアノを弾くのもこの人。
 さて音のほうだがこちらもビンゴ! なかなかにイケる。ゴツゴツした、ザラザラした肌触りがもろ南部ローカルでGood なのだ。(よく知らないが)Stax あたりを彷彿、いやもっとディープに Malaco あたりの音に近いかも。ピート(=ジェシ)のギターもマッスルでの軽さとはまったく違うのにも驚き、今までに聴いたプレイのなかで最も硬く骨太な音色である。さらに、右チャンネルはほぼピートのギターのみ、ここまでピートがよく聴こえるというか“オン”になっているアルバムというのも皆無。全編に渡ってR&B/ゴスペルらしさあふれるプレイを堪能できましたヨ。エフェクト使用も珍しい部類(そんなことからもマッスル前、60年代の盤に思えてならないLP)。

 楽曲はというと全曲それなりにいい曲だが“これ”というのがなくて惜しい。そんな曲が2曲もあれば五ツ星を付けたところ。フレディさんの歌は、嫌味がなくてなかなかよろしいかなと。声の“太さ”がディープソウルですがな。
(030128)

 

******

マッスルショールズとはアラバマ州北のはずれの一都市、いや街か。“アラバマ”と言って欠かせない名前/ミュージシャンがいた、ドン・ニックス。そこで以下は彼のアルバムとその関連盤を。ほぼ全てがマッスルショールズ・スタジオ録音なのだが残念なことにピートは不参加…。

#051
"Jeanie Greene / Mary Called Jeanie Greene"
[ '71 Elektra/US]
<…:★>

 「可愛い魔女ジニー」、主演のバーバラ・イーデンのヘソ出しルックも懐かしき 60's TV Movie の原題は "I Dreamed of Jeanie" だったはず。で、こちらのジニーはと言えばマーリン・グリーンのカミさんにしてドン・ニックスまわりでの重要な歌姫。唯一のソロがこれでもちろん Produce : Don Nix、Engineer : Marlin Greene、全曲マッスル録音と文句ない布陣ではある、が、何ともオレには辛い一枚。
  なぜってこれ、フレディ・ノース盤など比べモノにならないくらいにゴスペル、ディ〜プなゴスペルアルバムなのだ。裏ジャケは両手を大きく広げ神への感謝か笑顔いっぱいのジニーの写真。そうか、はなからタイトルが“聖母マリアに呼ばれしジニー・グリーン”か。歌詞が載っているが、He, His, Him とHはすべて大文字で。自作曲のクレジットには ...... by Jeanie Greene (for Jesus Christ) と書いているのだから。いやはや敬虔なクリスチャン、彼女のみならず旦那もニックスもそのようだ。どうやらこの一派、そういうことらしい。

 クリスチャンといえば中でもエホバの証人信者たるウィリアム・ディヴォーン、彼のアルバムも色濃い宗教アルバムではあったが何と言っても曲が良かったので十分に聴ける/楽しめる盤。苦手な宗教モノでも曲さえ良ければそれでいいんですがね、ことこのジニー盤はあきまへん、魅力ある楽曲皆無。となれば聴くはマッスル四人衆やら(ピートに代わるギタリスト)ウェイン・パーキンスのギター等演奏だけなのだが、71年ではホーキンスの太鼓もまだまだ重く、こちらもすっかり期待外れ。
 ライ・クーダーのバックなどでお馴染みの名、クリス・エスリッジがこの盤に参加。ん?LAベースの人では? マッスルへの出張りはなんの絡みか。この人もコア・クリスチャンか。

(蛇足:クリスチャンと言えば、ピートの盟友レニー・ルブランは現在CCM (Contemporary Christian Music) フィールドで活躍中とか。アラバマという土地柄かマッスル四人衆もなにやら信仰心は深そうな…)


お次はその旦那のアルバム…。

#052
"Marlin Greene / Tiptoe Past The Dragon"
[ '72 Elektra/US]
<…:★★>

 同封の二ツ折歌詞カードには本人が描いたカラーイラスト、タイトルを表したものだろうドラゴン含む絵柄は聖書の一節からかも。しかし宗教色はそれくらい、カミさんのLPとは違うのでホッとする。全体的にカントリー風味、本人の声もカントリー声というか白人らしいそれ。自身のプロデュース、1曲のみロス録音、残りはマッスルでマッスルサウンド8曲、クィンヴィースタジオ2曲の録り。ベケット/フッド/ホーキンス参加、ギターはヒントン/パーキンスら。スティールギターに Leo La Blanc という名前があるがこりゃレニー・ルブランだろうなあ。

 このLPのような裏方稼業の面々のソロ作品をオレは“ご苦労さんアルバム”と呼んでいるが、まあね、それほど面白いモンはありませんな。ルブランやマイク・フィニガンなどの傑作もあるがそれはまれ、大抵は1枚こっきりで駄作多し。マーリンもこの1枚だけじゃなかったか。ご苦労さんモノではまあまあの出来、しかしウームと唸るような曲を期待してもあかんのよ。

 長尺 "Fields of Clover" という曲、どこかで聴いたようでもあるけれど、骨身に沁みているこの時代のアメリカン・ロックの典型、懐かしくもあり和む。イヤってほど聴いたコード進行はよく言えば「アメロックの良心」てなところですかね。


#053
"Don Nix / In God We Trust"
[ '72 Shelter/US]
<…:★★>

 御大ニックスの始めはシェルター盤。オクラホマ出身ミュージシャンの雄、リオン・レッセルのレーベル「シェルター」の初期盤。スーパーマンの胸のSマークをさかさにしたロゴで、すぐにクレームが付き変更されたはず。この盤はその逆Sマーク。全曲マッスルサウンド録音、エンジニアにマーリン、ベケット/フッド/ホーキンスにヒントンのギターとこの一派のレギュラー面々がバック。コーラスに The Mt. Zion Singers 名義(この盤ではジニー&マーリン夫婦の二人のみ)。 Furry Lewis、この時点で70前後と思われるブルースシンガー。この人が何やらニックス一派の精神的支柱のようでこのアルバム、後にもたびたび顔を出す。ご神託でもないだろうが曲の途中で“ポエム”してしまう、このジイさま。

 さすがにジニー/マーリンのご苦労さんモノとは一線を画するフロントマンらしい腰の座ったアルバム…ではあるがオレとしてはさして興味を感じないというのが正直なところ。この人の曲も声も。ジニーの声がほぼゴスペルクワイア(ダビングを重ねているので一声でない)、なにやらゴスペル色の強いザ・バンドを聴いているような気分に。ここでもホーキンスのドラムは重く硬く…まだ違うンだよなあ。



#054
"Don Nix / Living by the days"
[ '72 Elektra/US]
<…:★★★>

 前作同様71年盤だがこれはメジャーのエレクトラから。メンツも同様、ギターにヒントンの名がなくジミー・ジョンソンが、よってマッスル四人衆揃い踏み。曲のバリエーションが前作よりも豊富なのでよい。特にギター陣の活躍。リードプレイだからジミーを除くがほかに Wayne Perkins, Tippy Armstrong, Gimmer Nicholson の3名、はて一番弾いているのは誰やら。
  このアルバムでの Mt. Zion Singers にはウェイン・パーキンスも加わり3人名義、どうやらウェインもこの一派の重要メンバー、なんだかキリスト原理主義結社のようなのだなぁ(シオンてことはユダヤ教?)。ニックス&ロニー・マック共作にはこんな歌詞が…
Glory, Glory, Hallelujah / How kind His mercy /
How sweet is His love...

 ルックスはヒゲにロングヘアー、なんだかヒッピーもどきなニックス先生。



それほど売れるとは思えないニックスなのに上記盤は二ツ折特殊ジャケ(フェルト貼り)のエレクトラ盤。ジニー、マーリンのご苦労さんモノすらエレクトラだった。そういえばセイルキャットも、そのソロ作コート・ピケット盤もやはりエレクトラと、何やら損得抜きの関係がニックス(もしくはマッスル界隈)とエレクトラの間にあるのではと想像してしまう。強く思わせるのがこの二枚組…。

#055
"The Alabama State Troupers / Road Show"
[ '72 Elektra/US]
<…:★★>

 "Specially Priced Two Record Set" とジャケに書かれた二枚組を出すなんざぁエレクトラのドン、ジャック・ホルツマンも太っ腹。この人がニックス・クリスチャン・ファミリーのシンパなのかも。
 このセットは Don Nix, Jeanie Greene, Furry Lewis 3人をメインアクトとしたライヴショウを録った盤。バックを務める Mt. Zion Band には Wayne, Tippy 両ギタリストの他に Clayton Ivey, Bob Wray らマッスルミュージシャン(四人衆は不参加)。コーラスはもうシンガーズではなく Mt. Zion Choir、五人でその一人にマーリン・グリーン。

 これはもうニックス親分の宗教結社決起集会といった風。なのに場所はアラバマではなくアナーキスティックなヒッピーが溢れていただろう71年のカリフォルニアはロングビーチとパサディナが会場となっている。観客はオレ同様に抹香臭いのはかなわんが音さえゴキゲンならばえーもんね、という輩だったのか? そんな中で宗教色濃いナンバーが延々と続く(ルイス師のパートもたっぷり)のだが、客は熱狂。たんにラリパッパだっただけかも…。

 個人的な聴きどころはカウボーイのカヴァー。マイフェイヴァリット中のフェイヴァリットバンド、Cowboy の傑作ファーストから "Opening - Livin' in the Country" を取りあげている。出来はともかく嬉しい選曲。
(030205)



 

 


 

 

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