#069
"加藤和彦/それから先のことは…"
[ '73 ドーナツ/東芝]
<C:★★>

 Kunio Kishida なるギターおじさんに先立つこと30年前にしっかりと日本人の完全マッスル録音はあったのだった。それも業界ではビッグネームだろう加藤和彦が…、知らなかったなぁ。
 翌74年の正月だったと思う、NHKTVで日本ロック特番(公開生演奏の録画)があった。井上孝之&ウォーターバンド、山内哲&Good Times Roll Band などとともに加藤も出演してこのLPから3曲やった。悪くないと記憶、今日まで頭の中のジュークボックスには収めていたが…。
 しかし、その3曲の聴きかえし含めてこのアルバムを全篇通して聴いてみると肩は落ちた。なぜにこれをマッスルで? “シティポップス”なんて言葉も浮かぶ可もなく不可もない曲が淡々と流れるのみ。これなら東芝スタジオで十分じゃないのか…とも思ったがふと考えるに東芝で録るよりも旅費・滞在費入れてもマッスル録音のほうが安くあがったのでは。スタジオフィー/ミュージシャンフィーは日本のほうがずっと高くつくような。経費はそこそこの上に「海外録音」の話題性も加味できるとなれば…。(このアルバム全10曲の録りにせいぜい10日のブッキング、二週間と要してないと思う/マッスルは仕事が速い)

 さて海外録音でもマッスルショールズとなった理由はと推察するに…。これはミカバンド解散後初ソロ? ともかく、この頃の加藤がロンドン趣味から一転、アメリカ志向だったのは確か。アメカジ着て雑誌ポパイなどに出ていたっけ。ゆえに当時旬のアメリカ・スタジオと言えばマッスル、と。
 直接の要因はポール・サイモン『There Goes Rhymin' Simon』のマッスル録音と想うが、これも同73年、前後関係がはっきりしないが、73年初頭にポールのアルバムを聴いて決心し同年内にマッスルへと向かったのかも。というのも、ポールLPに“凄く近くてかなり遠い”加藤LPだから。音像はかなり近いってのに、この軽さはとてもマッスルリズム隊を活かしているとはいえない。全篇マッスル四人衆+マッスルホーンセクション、それにピート(ギター)とTim Henson (kbd) が加わるのみ、最良の布陣なのに…。

 歌詞のマズさもかなりひっかかる。本来何を歌っているか気にせず聴いているはずのマッスル物なので矛盾するようだが、ここでの歌詞は「オシャレなだけで薄っぺら」、まるでロックを感じさせないからかもね。長年のコンピ=松山猛ではなくこのLP全詞手がけたのは当時の奥さん=安井かずみ。アイドル歌謡曲ならいざ知らず、マッスルをバックに聞かされる歌詞がこれじゃあ…
「『何かないか』とよく うろついた街/夜になるのを待ち 出かけた毎日/それはそれで また あの頃には/恋としゃれた服で 過ぎていった」
「France Bedにあの子とG.E. Kitchenあれば/あとはどうにかなってゆきます」
 ピートのギターは、「キッチン&ベッド」ラストの弾きまくり/「貿易風」でのツインリードなど皆無ではないが、どれもイケるフレーズではなし。

(蛇足1) マッスル録音盤だってのに表ジャケ写はロスはBeverly Wilshire Hotelの部屋で寛ぐ姿。それもご丁寧に、「Bricksのスーツを着て、アディダスの靴履いて、Holstonのコロンを…」つけていることまでクレジット入ってます(笑)。ジャケからはコロンの香りまで分からないっての! こういうスタイリスティックなところがいかにも加藤和彦なんだけど、Biverly Wilshireってスペルミスしてますヨ。かっちょわりぃ〜。<Bricks は高橋幸宏のブランド>

(蛇足2) 裏ジャケにはお馴染み "3614 Jackson Highway" の文字看板が掛かったマッスルスタジオ全景写真が。ここは移転前のオリジナル・マッスルスタジオのはず、住所は Muscle Shoals, Alabama の。ところがアルバムクレジットには Sheffield, Alabama となっている。同年のポールLPにも内ジャケにこのスタジオ全景写真は入っていて、こちらではシェフィールドの表記はまったくないのだ。相変わらずはっきりしない、スタジオのアドレス…。

 

 

 

#070
"Frankie Miller / Standing On The Edge"
[ '82 Capitol/US]
<C:★>

 はて?FMって誰だっけ? その名はもちろん、顔まで分かっていながら誰かはっきりしない。いつも帽子を被っていた70年代英国ロックシンガー、ず〜っとソロ活動…てなところがイメージ。売れない Joe Cockerか?
 まあ誰でもいいけれど、とにかく初めて聴くFM、この82年盤はかなりショーモナイ代物でした。まず1曲目をブラインドで人に聴かせれば十中八九ロッド・スチュワートと返ってくるだろう。次曲はポール・ロジャーズに早代わり。バラッドになるとボブ・シーガーと化してしまう!これほどオリジナリティがないというか、本人の声の分からないシンガーも珍しい。

 ベケットのプロデュースで、バックは(ジョンスン抜き)マッスル三人衆、ギターはピート/ウェイン・パーキンス/クリス・スペディングの三人。82年でピート参加は珍しい部類だがメンツ的にはオーケー……だってのに、いったいこのパワーコード連続のブリティッシュ・ロッキンアルバムのバックは本当にマッスルリズム隊なのだろうか。ドラムもベースもそうとは思えない!
 気になるのが [special thanks to my own band] のクレジット。そのあとに4人名前が入っている。これって? スタジオ表記はマッスルショールズのみなのだが。「今回のアルバムではまったく演奏していないが普段のギグではいろいろ面倒かけてスマンな」とでもいうことか? 聴いたぶんにはこの4人バックのロンドン録音としか思えない音。ピートのピの字も感じられない、オレ的には Thumb Down なアルバムってこと。

 全10曲FMのオリジナル、うち5曲は(元フリー)Andy Fraser との共作。そしてクリス・スペディングの参加、かなり Island色濃し。この盤は米キャピトル盤だが英オリジナルはアイランドからなのだろうか。トラフィック組といいフリー組といい、なぜにマッスルショールズとアイランドはかくも深く関係したのかという疑問が付きまとう。

(蛇足)
このLPのレーベルが変わっている。通常のキャピトルレーベルの一部が紙はがれ(のようなデザイン)になっていてそこにMSSのアルファベットを重ねたMuscle Shoals Sound Records のロゴがある。裏ジャケにもこのロゴがあり、produced by Barry Beckett / A Muscle Shoals Sound Production となっている所からして完全マッスル制作で、そのマスターをキャピトルに売ったという事かも。オリジナルは英盤ではなくこの米盤なのかもしれない。
(031201)

 

#071
"Millie Jackson / Caught Up"
[ '74 Spring/US]
<C:★>

 過去2枚をケチョンケチョンに評したミリー・ジャクスン姫、懲りずにまた買ってしまった。この盤は4ページに入れた "Still Caught Up" の前編、愛憎劇場の第一幕はこちらというわけ。
 手を出したイチの理由は "(If lovin' you is wrong) I don't wanna be right" を採り上げていたから。それに Bobby Womack, Bobby Goldsboro 楽曲も、となれば…なにしろバックは全編マッスルだし。
 で、結論から言えば…「あ痛〜ッ! またヤラれてもうたぁ!」。箸にも棒にもとまでは言わないが、オレにはまったくダメだぁ。曲間クロスフェイド、全曲で一幕の三角関係バトルが延々と続く。カヴァーが入るのはどういうことかと思えば、ようするに三角関係曲を適材適所に配しているのだな。でもって山場(修羅場?)は自作曲で。"All I Want Is A Fighting Chance" なんて曲では、Mrs. Jody なる不倫相手役と罵り合う始末…。もう好きにせい!としか言えまへん。"It's All Over But The Shouting" なんて曲もある。最初、 "Shooting" と勘違いして、「もうすべては終わりよ…アンタの体に弾を打ち込む以外はね…」なんて意味かと、なんとブッソウなアルバムかと思ってしまった。

 裏ジャケクレジットはイケるんだ、"Rhythm by : The Muscle Shoals Swampers" なんて書いてある。実際全曲マッスル録音、四人衆+ピートの5人で全曲担当。なれどいわゆるピート節は皆無、当たり障りなしの凡庸なギターのみ。フッド/ホーキンスのリズム隊は悪くないがなにしろ曲に魅力がないもんで…。期待のカヴァーも…がっくり…。


 

#072
"Odia Coates"
[ '77 United Artists/US]
produced by RICK HALL,
in association with PAUL ANKA Productions
<C:★★>

 友人が、こんなピート物もあったとMDにして送ってくれたブツがこれ。まったく知らないシンガー、ジャケ写も添えてくれて、見れば Black Female Singer ですな。
 でこれが、う〜むと、ちょいとばかり腕組みして考えてしまった…。クロかったりシロかったり。シロい理由は明白、プロデュース表記にあるようにポール・アンカという安価な名前が…、全11曲中6曲がアンカの作。それらが圧倒的にシロい。
 このオウディア・コーツ(の読み?)嬢、サイトチェックで少し見えてきました。73〜77年の間、ポール・アンカはUNITED ARTISTS からアルバムを出していた(うち『Feelings』は4ページに)。その時期にかなりの自作曲をコーツ嬢とデュエットしていた様子。ようはアンカの秘蔵っ子扱い、なので同レーベルから彼女のソロも出してあげた、と。ここに収録のアンカ曲は大半がそのデュエット曲を一人で歌い直したようだ。
 アルバムトップがいきなり黒く、期待持たせるいい出来。タム打ちドラムで始まるところはオレの“つぼ”…たまらぬ(但し "(I've got to use my) Imagination" に似すぎの感あり)。なのに次のアンカ曲で一気に真っ白な世界へ。「白」が悪いわけじゃないがことこのアルバムでは、この人の声にはなんとも…文字どおり「白々しい」感じ。10曲目 "(I'm) Having Your Baby" はアンカの(たぶんコーツとのデュオ)歌で聴いたことがあるなぁ、ヒットしたのかも。

 まあ結局のところ良し悪しあって50点てなところか。ギターに関しても非常に悩む。曲別クレジットが無く、表記では Tippy Armstrong, Ken Bell, Travis Wommack, Sandra Chalmers, Pete Carr の5人。ティッピはボビー・ワマックのアルバムに参加していた、ケン・ベルもこのサイト内数枚に… Fame のギタリストかも。トラヴィスはそのソロもこの頁内に、やはり Fame の座付きギタリスト。 リードプレイが誰やら分かりにくい…う〜ん、ピートかなぁ?と思う箇所もあれどハッキリせず。1曲目のダブルトラックはピートだろう。
 録音がフェイムのみ、ゆえかマッスル四人衆は不参加。Lenny Le Blanc, Bob Wray, Tim Henson, Randy McCormick, Roger Clark らピート組メンバーで固めたバック。
(040124 : thanx to ue )

 

 

 

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