#087
"Reuben Howell"
[ '73 Motown/US]
<C:★★>

 前出『Rings』は2枚目、こちらのセイムタイトル盤がデビューらしいルーベン兄。プロデュースは前作同様…ではなくてこちらが先。ピートの参加盤ではあるが2枚ともマッスルスタジオ/四人衆が絡まないところのマッスル録音盤。

 さて「リング」では“アルバム中に占めるカントリー調曲はつまらないが…”と書いたが、こちらファーストはその類でほぼ占められてます。正直こりゃかなわんわい、と。その反省からセカンドでは曲にバリエイションをつけたのかもしれない。
 Aー2曲、メル&ティムに似たような曲があった、腰の入ったべースでなかなかいいカンジと思えど歌が入るとコケる。声が白すぎるうえに深みがまるでない。それは、マッスル名曲の代表 "男が女を愛する時" をカヴァーしているのだがそこでも如実に出てしまうのだねェ。このオリジナルはクィン・アイヴィのプロデュース/クィンヴィ・スタジオ録音だった。そしてこのルーベン・ヴァージョンのプロデュースはクレイトン・アイヴィで、録音はこの時点ではブロードウェイと名を変えている元クィンヴィ・スタジオ。どう考えてもクィンとクレイトンは親族でしょ。クレイトンは弟かはたまた甥っ子か…。まあここでは甥っ子とすると、伯父の大ヒットをカヴァーしてみたわけだがどう贔屓目で見ても甥っ子の分は悪い、かなりショボいカヴァーとなってしまったのだった。
 シンコペ効いてクラヴィが跳ねるAー5とB−4がまあいい方。とは言えこの曲調、同時期70年代初期に日本でサウス・トゥ・サウスやソー・バッド・レビューががんがん演っていたが日本勢のほうがなんぼか巧い、マジで。

 ギターはピートとケン・ベル。しかしピートかケンかと問う前にほとんどギターが、エレキもアコも聴こえないンだよね。これまたちょっとないだろとグチりたくなる盤でした。

 

#088
"Gary Farr / Addressed to the Censors of Love"
[ '73 Atco/US]
<C:★★>

 これはちと奇妙な手触りのマッスル盤。R&Bからカントリーまでなんでもありのマッスル録音なのだが、つまりはアメリカ音楽の坩堝。なのにこのゲイリー・ファーなる兄さんからは出自たる英国の匂い/トラッドな音を感じる。英国といえばアイランド関係という繋がりは確かにあるマッスルとはいえ、その関係英国ミュージシャンらは米国音楽フリークであった。このファーから、ディランを感じなくもないが音として米国はあまり感じないのだった。
 ディラン的な部分、とにかく歌詞が長い/メロディよりも先に言いたいことが口を出てしまう。ディランはそれでも(たぶん)適当な鼻歌メロディが人をひきつけるという希有な才能があったがこの人はちょっとねぇ…メロに“冴え”はほとんど感じられぬ、そこが辛い。しかしそこは商売ゆえマッスルリズム隊は経験を活かしたヘッドアレンジで凡曲を盛り上げる、たぶんバリー・ベケットがチーフ格だろう。努力の甲斐はほんの少し、"White Bird" という曲はそれで救われているかな、そんな程度。
 プロデュースが Jerry Wexler & Jim Delehant 。ジム某は知らぬがウェクスの仕切りで完全マッスル録音/マッスルリズム&ホーン・セクションのバック。ピートのギター。なにゆえにウェクスはこの英国SSW兄さんをマッスルくんだりまで連れてきたのか? マッスルセッションにあまり見ない顔がひとつ、Lead guitar : George Terry 。たしかにリードプレイはすべてテリーなのだろう、ピートはほぼアコギに徹している様子ゆえその面でも冴えない盤。

 ここでひとつ、疑問が確信に変わりつつある。George Terry はマイアミは Criteria Studio 付きのギタリストであろう事。この盤、録音はマッスルだがミックスはクライテリア。ミキシングエンジニアが Karl Richardson / Albhy Galuten 。過去ジョージ・テリーがギター参加したアルバム『Barry Goldberg』『Barbra Streisand/Guilty』と共にガルティンが絡んでいる。リチャードスンとガルティンはクライテリアのエンジニア兼プロディーサー。クライテリアで録った『461 Ocean Boulevard』以降クラプトンバンドに加わったジョージ・テリー…つまりはテリーはガルティンと行動を共にしていたクライテリアのギタリストなのだろう、と。
(040818 : thanx to ue)



#089
"Z. Z. Hill / The Beginning...."
[ 'originally '70 Mankind/US]
<B:★★★★>

 この盤、77年日本テイチク盤を買った。オリジナルは70年米 Mankind 201 盤でタイトルも『Brand New Z. Z.』であったと、ミリー盤と同じくサクライさんのライナーにある。76年に英で Contempo レーベル盤が同内容ながらタイトルを上記に変えて発売、テイチクはその英盤のライセンスで出したためにレーベルも Contempo のデザインとなっている。 …ということで Mankind とくれば即出てくるのは名盤フレディ・ノースの『Friend』(see page-07)。こちらが Mankind 204 だから番号も近いZZ盤、のみならず内容も酷似… Jerry Williams Jr. によるプロデュース盤であった。

 そのジェリー・ウィリアムズこそ Swamp Dogg であると板で教えていただいた。つまりはこれもフレディ盤もスワンプ・ドッグ仕切りによる Quinvy Studio 制作。ドッグ自身のアルバム含めスワンプ・ドッグ・セッションに欠かせないギタリストが Jesse Carr、つまりは若き日のピートという次第。でこのZZ盤でも全編ギターはピートが弾いている。ちなみにパーソネルは:
Drum : Lou Mullenix, Guitar : Jesse Carr, Jimmy Evans, Bass : Bob Wray, Kbd : Jerry Williams, Clayton Ivey, Chuck Levell... これだけじゃないが基本メンツはこんなところ。フレディ盤に近い。

 フレディ盤との比較、ことギターに関してはフレディ盤ほど前に出てきていないのが残念。それとこの時期、いわば初期のピートだが全盛時とは音色/フレーズともかなり異なるので別枠にしておくのが賢明、それでも硬質で手堅いサウンドはそれなりに聴く価値があるのだ。
 それにしても「イナタさ」はマンカインド盤全般(といってもたった2枚だが)に言えることでこのZZ盤も強烈なブラックコミュニティ向け仕様となっております。A面すべてを使っては三幕のブルーズ・オペラというから…(困ってしまう?笑ってしまう?呆れてしまう???)、男女愛憎劇はたぶんにミリー・ジャクスン的であります、ハイ。ただしミリーほど感情が爆発しないのでオレ的にはオーケー、ベシャリ部分には多少閉口すれど曲が悪くないので楽しめた。三幕を五曲に分けていて、ラストナンバーは "Faithful and True" という曲。これがZZヒルの傑作とライナーにある。シングル(二種あって最初は Quinvy Records からと。クィンヴィでレーベルがあったんだね)も出たらしい。ライター Greene / Greene / Penn とはマーリン&ジーニー・グリーン夫妻にダン・ペンこと Daniel Pennigton にまず間違いないでしょ。かな〜り宗教な方々による崇高な楽曲でございます、ディープに南部な音盤だこと。

 四つ星はちょいと甘いなぁ、けれどスロー/アップの楽曲はイケるほうなので…。 聴いていて上田正樹を強く感じた。声自体も酷似だし曲調も。South To South ってバンド時代、かなりここらの盤をお手本にしていたんだなあと強く思った次第。ベースからギターからすごく近いもんがある。ギターはピート(ジェシ)なのだから、サウスのギタリストの“クンチョウ”とピートがつながるとは今の今まで思っていなかった。特にLPラスト曲 "I think I'd do it" はもろサウス…。いや逆ですが。
 
 つながると言えば、このディープソウル・シンガーのバックを務めるギタリストがロッド・スチュアートからポール・サイモン、はてはバーブラ・ストライザンドのバックまでも務めているとは気づかれることも少ないンちゃう?


#090
"Bobby Womack / Understanding"
[ '72 United Artists/US]
<…:★★★★>

 いやあ70年代のワマック、たまらなくカッコいいねぇ。駄作がない。とにかくAー1曲がどうしようもなくカッコよくて。ポール・ウェラー、スタカンはこういうことがやりたかったんだろうなあ。しかし黒人独自の“地肩の強さ”にはかなわないって感じ。
 しぶ〜いジャケ写は Norman Seeff、3曲が American Sound (Memphis) 録音で6曲が Muscle Shoals 録音という盤。残念なことにピートの名は無し。マッスルセッションでリードを弾くのはワマック盤ではお馴染みの Tippy Armstrong 。メンフィスではもちろん Reggie Young ですわな。

 とにかく1曲目の怒涛の押し、マッスルリズム隊のソリッドな音のキレが素晴らしいので後はどうなるかとワクワクしながら聴き続けると…ちょっとね、もちろん悪いはずはない御仁ですよ、でもちょっと肩すかし。カヴァーがやっぱり2曲。毎回その程度にホワイトなカヴァーが入るのは営業的になのでしょうか。そこら辺アイズリーズにも似て。"Natural Woman" のようにキマったカヴァーもあったが他はどうもハズしがち…ちょい気になるところ。今回はB4"And I Love Her" 、ニール・ダイアモンド "Sweet Caroline" 。どっちもなんか違う。
 それでも他曲の粘り腰は相変わらず最高。といってもこの盤が72年だから今まで採り上げた3枚はこの後か。この盤あたりから始まるマッスル通いとなると、相性は始めからバッチリだったということ。ミリー・ジャクスンとこのワマックが70年代通してマッスル録音を続けたことになるが、Black Rhythm & Blues ワールドにハマるマッスルセッションを証明した二大看板かなあ。まあ個人的趣味とは恐ろしいモンでワタシにゃあ…片や最高、片や…。

 

 


#091
"Johnny Rivers / Road"
[ '74 Atlantic/US]
<C:★★★★>

 無理のない歌い方で大好きなシンガーのひとりがこのジョニー・リヴァーズ。“アメリカ”のシンガー…と個人的には強く感じる人。のっけものっけ、このサイトのファーストチョイスがこの人の『Borrowed Time』だった。全編マッスル録音だったがピートの不参加が残念と書いた盤。で、この盤には参加とAMGにあったのでかなり期待を持っていたのだが…。全10曲中マッスルセッション曲はわずか2曲、残りはナッシュヴィルセッション。
 しかし待てよ、『Borrowed Time』のライナーにこの80年盤まで「アルバム収録曲の何曲かは必ずロスで録ってきた、この盤は全曲をロス以外で録った初めての盤」とリヴァーズ言っていたはず。違うじゃないの、この74年盤はナッシュヴィル/マッスル録音なのだが。勘違いか?それともオヴァーダブ(歌入れ/コーラス)はクレジットがないがロスで行っているということかもなあ。その線は十分考えられる。大半曲にコーラスが入るがそれがリンダ・ロンスタットとハーブ・ペダーセン、ということはロスでの被せじゃないかな。

 始めに2曲のマッスル曲をやっつけてしまうが、1曲はあの名曲 "Sitting in Limbo" のカヴァー。Milt Holland が steel drum を叩いていて(これもロスで被せだろう)、ホーキンスのグロッケンやベケットのエレピがなかなかいい味を出している。のに、Jimmy Webb のストリングスが余計。せっかくの“小粋さ”が台無しだわさ。もう1曲、ラストの "Breath" はいかにもラスト用に作りましたという歌い上げ楽曲ながら結構気に入った。ちらっとリード/オブリに聴けるギターだがこれほんとにピート? ピッキングアタック音を消したヴォリュームペダルでのプレイのようだが、ピートとしたら他では聴いた記憶ない…。

 残りナッシュヴィル曲がいい。ジム・ウェッブのスロー曲からアップナムバー "Six days on the road" のカヴァーまで曲の粒も良いがなんといってもこの人の声が良いのだ。それとギタリスト=レジー・ヤングの活躍。前ワマック盤では地元のメンフィスセッションなので参加だったレジーだが、出張りも多い人でマッスルへもナッシュヴィルへもギター1本で馳せ参じてくる。ここではナッシュヴィルらしいカントリーリックを披露。ジェイムス・バートンばりかね、このプレイは。
 "Six days on the road" で思い出したのはリヴィングストン盤(see page-01) でのピートのリード。レジーのプレイと聴き較べれば、こりゃもうレジーの圧勝でした。
(040908)

 


*********


これはピート不参加ながら、久々に見つけた好盤なのである。黒人シンガーだが不思議な盤とも言える…白くて黒くて…。

#092
"Dianne Brooks / Back Stairs of My Life"
[ '76 Reprise/US]
produced by Brian Ahern for Happy Sack Productions
<…:★★★★>

 ハッピーサック・プロダクションのブライアン・エイハーンがプロデュース。エイハーンといって何思う? やっぱエミルーでしょ。エミルー・ハリスのプロデュースでのエイハーン、それはロスでの録りだったが Amos Garrett がいいギターを弾いていた。やはりエイハーン・プロデュースでの Rodney Crowell 盤にもエイモスが。ようはエイハーン仕込み盤にからむエイモス、それがここでも言える。この盤にもエイモス参加。 で、これもロスでの録りかと思いきや…全十曲うち四曲はマッスルサウンドでの録りなのだ。六曲は "The Enactron Truck" とあるのみ、スタジオ名だろうしここはロスと想像するが。Bill Payne, Waddy Wachtel らの名からしても。

 過去にウッドストックとマッスルの見事な融合とした傑作が『Mike Finnigan』(02 page)。このディアンヌ盤はこれに近いのがまず不思議。ウッドストック一派のジェシ・ウィンチェスター曲を採り上げていたフィニガンに対しこちらはボビー・チャールズの "Small Town Talk" を。これがマッスルでの録音でギターがエイモスというのだからたまらない。フィニガン盤でのエイモス/マリア・マルダーの参加はマッスルへ出張り参加ではなくNYでの重ねではないかと書いたが、どうもこちらは完璧なセッション、エイモスのマッスル出張りに感じられる。
 もうひとつ、フィニガン盤はピートが素晴らしいリードを弾く "Saved by the Grace of Your Love" から始まる盤だったが、こちらディアンヌ盤はなんとラストが同曲(残念ながらエイモス不参加だが Wah Wah Watson の、らしいギターが堪能出来る)。同じ76年で同じワーナー盤(Reprise はワーナー傘下)、なにやら因縁めいたモンが…?

 不思議な感じといえば、個人的かもしれないが非常に白人に寄った(?…カントリー色濃いエミー・ルーのためにそう感じる)エイハーンがこの黒人シンガーをプロデュースすること自体に強く感じたりもする。そしてロス録音では非常にブラック色の濃いセッションという点も。数曲は James Gadson / Willie Weeks という強力リズム隊。
 1曲目 "99 Mile from L.A." 。強力リズム隊にからむギターがワーワーとエイモス! ズ太い粘り腰リズムにからむきらびやかな二人のギターが最高。ジーン・ペイジあたりのアレンジを思わすいかにもロスらしいアップリズム曲はとてもエイハーンとは思えないし、エイモスのギターがこの手の楽曲にこれほど合うとは、意外!なぜかバックコーラスにアン・マレー…これまた変よね。
 選曲も良くて、イーグルス "Desperado"、ここではギャドスン/ウィークスにワディのギター。Stevie Wonder, Phoebe Snow の曲。エイハーンがらみだろうロドニィ・クロウェル曲も。 "Saved by the Grace of Your Love" だが、作者のひとり William D. Smith という人が同曲でキーボード参加、のみならずタイトルトラックの "Down The Back Stairs (of my life)" もこの人の曲で参加もしている。

 ギャドスン/ウィークスの強力リズム隊が四曲、フッド/ホーキンスのマッスルリズム隊が四曲と星を分けたグレイトなサポートにエイモスのいいギター、となれば満点五つ星をつけたいところ。しかしここが一番大事なところだった、本人ディアンヌ嬢が…オレにはいまひとつ。なにしろ声にそれほどの特徴がない。前に Dee Dee Bridgewater で書いたような、たぶんゴスペルなバックグラウンドだろう、「声量には文句ないんだけど…」組のひとり。(声が出ればすべてゴスペルでくくってるオレもどうかと思うが…)
 あくまでも「オレには…」、個人的なモンでして。歌の上手い人ですよ。

 

 





 

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