#114
"Ron Banks & The Dramatics/The Dramatic Jackpot"
[ '75 ABC/Japan ]
Don Davis for Groovesville Production
<C:★★>

 このアルバム、75年だというのにミュージシャンクレジットでは Jesse Carr になっているという珍しいピート参加盤。八木マコっちゃんのライナーノーツによれば、この盤はドラマティックスにとって STAX 傘下 VOLT から西海岸 ABC レコードへの移籍第一弾とのこと。この頃のABCはフレダ・ペイン、フォートップスなどブラックレーベルの大物をぞくぞくリクルートしていた、ドラマティックスも同様ということ。但し、それまでの大物にはスティーブ・バリやランバート/ポッターらベリイホワイトな裏方が付いてホワイトマーケットをかなり意識した盤を連発していた。対しこのドラマティックスのプロデュースは従来通りに Don Davis が担当。

 ドン・デイビス、(たぶん…)デトロイトがベースで Groovesville Production を主宰するインディペンデント・プロデューサー。No. 107 のデルズ盤を参照してもらいたいが、ここでもデトロイトとマッスルでの録り分けをしているように思える(記載なし)。ミュージシャンクレジットにはモータウン勢の Earl Van Dyke, Melvin Griffin, Peanut Chandler, Robert White らと共にベケット、ピート(ジェシ)、ジミー、ホーキンスが。フッド抜けだがこれはたんなる漏れでしょう。

 音を聴くとAー1がいきなりのマッスル録音/ピートのギターも少しイケてる、期待したがその後にこれはマッスルと思える楽曲が皆無だった。ということでマッスル的にはプアなお皿。 次曲はもろモータウンなデトロイトサウンドで3曲目はもろスピナーズ、「シグマサウンド録りじゃないの?これ」。たんにてんでばらばらと取るか、バラエティに富んだ佳作と取るか…悩みます(笑)。
 そのシグマの傑作 "Me & Mrs. Jones" を疑似ライブ仕様、6分越え長尺によるカバー。これがかなりコケ気味、入れなくてよかったのでは。全体にはまあまあ…(ブラック盤はこう評価してばかり…)。とにかく個人的にはトップ曲の出来の良さは捨て難く、この1曲のために当分は残しておこうかな、と。
 この曲は "Sagitarius, Virgo, maybe Scorpio... / I wouldn't care if you were Aquarius" の歌詞で始まる。我が all-time best black tune であるところの "The FLOATERS / Float On" を彷彿させる。というか、Facts of Life 盤でも書いたがほんとにアフロアメリカンは星座好きだよねぇ。



*********

70年代マッスルスタジオの根幹をなすのはもちろん Jerry Wexler 。ウェクスプロデュースとなれば自家薬籠中、マッスルAチームたる四人衆にピートのリードでマッスル録音。次に再三採り上げている英国アイランドとの共闘路線あり。そして、掘り起こすたびに出てくるのが、このピケット盤でもある Brad Shapiro プロデュース作品。シャピロという人もウェクスに負けずマッスルスタジオをひいきにしていた様子。すでにミリー・ジャクソンはもちろん、ファクツ・オブ・ライフ、ベッキー・ホブズ、バンクス&ハンプトンからアンディ・フレイザーまで10枚を数える。今後もこの名には注意が必要のようだ。

#115
"Wilson Pickett/Pickett in the Pocket"
[ '74 RCA/US ]
produced by Brad Shapiro and Wilson Pickett
<B:★★★★>

 リック・ホール指揮の下、フェイムスタジオ録音の68年盤はデュアン・オールマンのギターが冴えた名盤と誉れも高いウィルソン・ピケット。マッスルとの相性の良さを思ってか、単にブラッド・シャピロだからか、RCAへの移籍以後もマッスル録音は続いていた。No. 97 『Mr. Magic Man』がアトランティックからRCAへ移籍第一弾。続く翌年のこれが第二弾でともにシャピロのプロデュース作。ただしフェイム盤に比べ人気の低迷?時代の変化?、ここらRCA盤はほとんど顧みられることがないのでは。まず今後もCD化されるとは思えない。 この盤も中古棚に¥800で埋もれていたりする。誰にも手をつけられずに…ジャケも盤もほぼミントなのに。"Lord have mercy, baby..."

 良い盤だと思う。 タイトルの語呂合わせがよい。次にジャケがいい。WILSON PICKETT の書体がいい。黒人(だけ?)が集まるバー、ビリヤードに興じる男達。低めの照明はグリーンの傘、ポケット台のグリーン、ピケットの両脇の色添え衆もグリーンのドレス。真っ赤な革ジャケット姿のピケットが映える。黄色、赤、ブルー、原色のボールも映える。完璧な構図にして完璧な色調構成に驚く。意図してアートディレクションされたのか、はたまた偶然か(笑)。 映画「ハスラー」の世界。トム・クルーズ主演のリメイクではなくてポール・ニューマン/ジャッキー・グリースンによる一作目の。

 地味ではあるがほんとに好盤。シャウトナンバーはこの人の十八番(おはこ)、スローも味わい深く、聴くほどに良くなる法華の太鼓。なかでも抜群の1曲…"Young Boy Blues" という曲が素晴らしい。これ、ライター表記が Spector - Pomus 。フィル・スペクターとドク・ポーマスだろうからスペクターがアトランティック時代、いわばかけ出し頃にブラックアーティストへ書いた曲、かな?さてオリジナルは誰だろうか。 それとこのLPには『Paul Butterfield's Better Days / It all comes back』からの "Take your pleasure where you find it" (Butterfield - Bobby Charles) もカバーされている。Pickett - Shapiro - Beckett 、ベケットも絡んだ2曲も含むというようになかなかバラエティに富んだ選曲なのも悪くない。

 前作につづいてクレジットはいたってシンプル、パーソネル表記まったく無し。あるのは produce, arrange by Shapiro and Pickett / background singers : Rhodes - Chalmers - Rhodes / rhythm : The Musle Shoals Swampers / horn : The Memphis Horns / recorded in Muscle Shoals Sound Studios, Alabama and RCA Studios, NY。NYはオーバーダブだろう、基本はマッスル録音とみた。
 ピートのギターが、ブラック盤の常で目立つリードはほぼ皆無。なれど渋〜いオブリは全編に渡っていて左チャンネルはすべてピートだろう。この地味な盤ではこんな地味なプレイも悪くないかも。というか、地味なプレイだからこそ、ここという箇所でのオブリがよけいに光っているとも言える。それと特筆すべきは毎度だがホーキンスのドラム、素晴らしい。
(050622)





"Kunio Kishida/Alabama Boy"
[ '05/キング ]
<C:★>

 究極の自己満足盤…これ意外に何か言葉がありましょうや…。
ナンシーという名のビンテージギターショップ・オーナー氏による昨2004年マッスル録音CDでございます(これが2枚目で1作目も同じくマッスルショールズ・スタジオで録音)。かのリチャード“ディッキー”ベッツ氏がオールマンズ全盛期に、あの "Ramblin' Man" やら "Jessica" の録音で使ったという五十ウン年製レス・ポールが渡り渡ってキシダ氏の手に。それならば、あの音を目指して行くはマッスルしかない…と氏は考えたのでしょうか。オリジナル楽曲を携えアラバマまでやってきたのよ、プロデュース担当ジョニー・サンドリンのセッティングが物を言った。

 しかしだ、この御仁のサイトを見る限りマッスルについてはほぼトーシローと見た。まずディッキー・ベッツはマッスルではまったく録音していない。まあスライドが得意そうなのでデュアンの路線、それでマッスルという意識が多少はあるのだろうが、オレが想像するにマッスルとカプリコーン・スタジオを勘違いしている。オールマンズのプロデューサーだったサンドリンが誘ってくれたんだからそこはオールマンズの録音場所、それぐらいしか頭になさそう。
 いったいマッスル録音といいながら四人衆の1人も参加していないという状況をなんとする? エンジニアだってマスターズでもメルトンでもない。つまりはシェフィールドへ移転後、二代目マッスルスタジオで録ったというだけ、オレ的にはこれは“マッスル物”ではない。

 なにしろ辛いのが氏の英語発音。全曲英語詞だがそのジャパニーズ・イングリッシュは大橋巨泉なみ、“もう許してくれ〜!”と叫びたくなる…喉をかきむしっちゃいました、ワタシ。
 そうだなあ、歌なしですべてインストだったらまだ★二つにしたかも。まあその程度、楽曲にも魅力はない。ただギターの音だけはイイよ、それは認めるさ。けれどね、だったらオールマンズの70年代のレコードを引っ張りだして聴くわさ。当然ディッキー・ベッツのほうがイイんだから。

 ジョニー・サンドリンがらみでマッスル録音といえば No.58 ダン・ペンのカムバック作品も。 マッスルスタジオが四人衆の手を離れて、人手に渡っているのは承知していたが現オーナーは再興されたカプリコーン・レーベルと勘違いしていた。ライナーによれば85年以降はマラコ・レーベルが所有していたとのこと。そのマラコが買収されたのを期にスタジオは今年1月をもって閉鎖。栄光のマッスルショールズ・サウンド・スタジオの幕が降りた…と感傷的にはオレはまったくなっていないス。
 なぜって四人衆がいないマッスルなんてマッスルじゃないもんね。つまりは70年代、ワンディケイドでマッスルはきれいに終わっていたのです。

****
 1作目をパスしながらこちらを採りあげたわけは、ピート・カーの参加。ピートとしてはアワグラス以来…ではなくて No.78 コーキー・レイング盤以来のジョニー・サンドリンとの絡み仕事でしょう。他にも、お馴染みチャック・リーベル、ポール・ホーンズビー、ボビー・ホイットロックらカプリコーン勢、わがカウボーイからスコット・ボイヤー、クラプトンバンド初代ドラマー=ジェイミー・オールデイカー(「オーシャンブールバード」でのあのスネアの音が聴ける)、デラボニのボニー・ブラムレット等々、すご〜く豪華なメンツが(たぶん)サンドリンの電話一本で駆けつけてくれました。だからね、バックトラックはまあまあ聴けるのよ。裏盤としてこっちだけの音をCDにしてみない?そのほうが売れると思うが…。
 あ〜っと、ピートはダメです。いったいどこで弾いているというのだろう。まったく分からなかった…。
 
****
 ここまで言うと何かもしれないけれど…。
70年代に活躍したとはいえ、参加のメンツね、今はそれほどいい仕事もないだろうし恵まれているとはとても思えないわけヨ。で、6〜70年代アメリカ音楽を世界で一番大事にしてくれるのってニホン人だとミュージシャンら、みんな分かってるんじゃないの? だからこういう機会には是非とも顔を出しておこう、と。まあプチ営業…とでもいうか…。そんな風に思えてならぬわけです。

 


"Orleans"
[ '73 ABC/US ]
<…:★★>

 オーリアンズのデビュー盤。前キシダ盤ライナーにこのバンドにもマッスル録音があるとの記載、今のいままで知らなかった。で、レコ屋でチェックしてみればなるほどこの盤は produced by Beckett/Hawkins とありますな。けれど裏ジャケにもゲートフォールドの内にも録音スタジオの表記はない。…がコマphotoの一枚に卓を操作する Jerry Masters が、明記もされている。なるほど、となればマッスル録音なのでしょう。
 ただし、これも続いての参考盤に。なぜといってマッスルらしさは皆無、セルフオリエンテッドにほぼすべての楽器を自分らでこなしている「バンドもの」ゆえ。マッスルAチーム(四人衆)、もしくはBチームの演奏なくしてはいかなスタジオがマッスルといえど…。

 非常に上手いバンドと思う。全員がマルチプレイヤー、卓越したテクを持つ。一応ジョン・ホールが率いる…だったのかな?この初期は。ウッドストック派がなにゆえマッスル録音なのか理解できないが、ギターリフを中心にハーモニーもいけるバンドのいける盤…なんだろう、世評は。
 何か奥歯に物がハサまってますが、個人的にはほとんど興味がなかったバンドでね、シングルは持っているがLPは初めて。カッコいいよ、とくにホールのギターはソウルのハコバンみたいで。8ビートの単純なカントリーロックとは一線を画しているね、このバンド。そのギターがカーティス・メイフィールドのようと言うか、こまかいキザミ/リフを全編通すところが非常にソウルフル。16(ビート)のバンドなのに爽やかなハーモニーが絡むところが新鮮…だったんだろうなあ。シュガーベイブを強く感じた。かなりお手本にしていたのでは。 その後の明るいヒュージョンバンドのとっかかり的存在とも感じる。
 そうか、いなたくアコースティックなウッドストックの音よりもオレらはブラックなテイストが趣味、ならばブラックの録音も数多いマッスルのほうがハマるという選択だったんだな、といまになって気付く。

 セッションギタリストとしてのホールは、タジ・マハール、ボニー・レイット、ジョエル・ゾス等の盤で素晴らしいソロを…好きなンだがねぇ、このバンドでは…。つまりは曲に魅力をまったく感じられないのだ。奥さんでしょ? Johanna & John Hall 楽曲ってつまらなくて。スローはまあそこそこいい曲とも思うがそれでもこれはという曲はないし。ヒット曲 "Dance with me" "Still the one" …いい曲だけど、やっぱりオレにはどうでもいい曲なんだよなあ。
 (ちなみに持っているのは "リーチ" の日本盤シングル。これってレア?(笑))




#116
"Johnnie Taylor/Crazy 'bout you"
[ '89 Malaco/US ]
<C:★★>

 AMGのピート・ディスコグラフィにはこの盤があった。しかしジョニー・テイラーは分かるけれど89年盤でピートの参加?79年の間違いではと思っていたが、実際に手にしてみたらたしかにクレジットにピートの名があった。
 80年代に入りマッスルもすっかり様変わり。85年からスタジオはこのマラコ・レーベルの所有となっていた。もともとが、ミシシッピ州ジャクソンのレーベルではあったがお隣アラバマのマッスルとは関係浅からぬ位置にあったレーベル。南部ではメジャーなレーベルゆえディストリビューションやらなにやらも含めマッスル制作盤の扱いは少なくなかったはず。

 「売れた」70年代が過ぎて80年代も最後にきてテイラーは故郷にほど近いジャクソン/マラコへと移籍、第一弾がこのレコ。プロデュースがウェクス……なんてことはもうないのです。誰やら知らぬお二方。録りがマッスルサウンド/マラコスタジオ/クライテリア。マッスルではエンジニアにマスターズ/メルトンの名がある、そうかそうか、80年代末でも頑張っていたんだなあ。
 で、バックメンツの中にはフッド/ホーキンス/ジョンソンの名“も”あり。少し参加しているけれどもうマッスル盤という括りは無くなっている時期なのですな。ギターにジョンソン含め5名。そこに Pete Carr もある。

 George Jackson, Sam Mosley らマッスルライター曲、Dan Penn, Duck Dunn らメンフィス曲もあり。"For your precious love" のカバーも。相変わらずでなかなかイナタい南部風味に溢れた盤…とはいえ米音楽シーンの中心からはかなり離れた時期も確か。南部ローカル臭漂う。売れればよいわけではもちろんない、けれどもマッスルといえどもパワー後退の感は否めず。世界のトップミュージシャンに注目された70年代からはかなりの時間が経ってしまっている。

 ピートのギターももうどれがどれやら。トップ曲の透明感溢れるギターソロ、ボブ・シーガー曲あたりでのピート・プレイに近い気がする。ピートかも。Aー3曲が "Just my imagination" に似た、同アレンジ曲。これはマッスルリズム隊のバックだろう。A面1〜3曲はそれなりに聴ける良い曲だが、残りはそう何度も聴こうという気にはさせてくれなかった。







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